第五十二話 ボドゲカフェ
「ここが遊星くんの教室なのですか」
秋根はそう言って教室の中をじっと見る。
「遊星くん、早速僕を案内してくれないかな」
相変わらず一人称がころころと変わる秋根を教室の中へと案内する。
俺のクラスは、所謂ボドゲカフェなる物だ。
ボドゲが沢山ある部屋で飲み物を売る。ただそれだけだ。
ちなみにボードゲームは各々の生徒の持ち込みである。
ボドゲの内容は、簡単なものだ。じゃんけんを活用したすごろくや、ダウトを利用したすごろくなど、様々なボドゲの他、囲碁将棋、チェス、オセロなどメジャーなものもあり、多種多様なゲームが揃っている。
「これやってみたいのです」
そう、秋根が言ったのは、意外にも普通の将棋だった。
「これ、できるのか?」
「もちろんだよ、お兄ちゃん。私、ちょっとルール知ってるんだからね!!」
妹口調で言う秋根。だが、困ったことがある。
「俺、将棋のルールなんて、からっきしなんだが」
俺はルール自体を知らないのだ。
「自分のクラスで展示するボドゲ―、のルールも知らないの? ざぁこ」
今度はメスガキ風のあおりを入れてきた。
いつの間にかそこまで精通していたのか。
「私がルール教えてあげるから感謝してよね、おにいちゃん」
そしてツンデレキャラだ。
これじゃあ、優子以上に妹だ。
アニメキャラのという枕詞が必要だが。
「じゃあ、将棋を指すのです。僕に勝てると思わないでよね」
今度は僕っ娘だ。
「じゃあ、遊星くん指すのです」
そして、将棋の対局があ始まる。勿論ルールなんて全く知らない。
囲碁なら少しは分かるんだけど、将棋はだめだ。
最近、プロ育成機関の人がプロ棋戦で結果を残していることしか知らない。
それも、ニュースで見たから知ってるだけなんだけど。
「じゃあ、初手いただくのです」
そう言った秋根は角の斜め上の歩を押し上げた。
「まず、ルールを教えてくれ」
そうじゃないと、指すことが不可能なんだ。
そう言うと、「仕方ないのです」、と諦め口調で言われ、将棋が指されていく。
その都度将棋のルールが教えられる。それを聞くに、秋根もそこまで将棋が上手くないみたいだ。
そして、早速将棋が進んでいく。
俺は秋根の前で必死に指していく。
とはいっても、ルールを覚えた程度だから、チキンとさせているかは怪しいところだが。
俺が慣れない手つきで将棋の駒を動かす様子を秋根がじっくりと見ている。
その視線を感じ、ドキッとする。
なんだか緊張するのだ。
「秋根、俺のこの仕草を見て安易が楽しいんだ?」
「もちろん楽しいよ、お兄ちゃん」
そう言って秋根は駒を持ち、バチンっと強い音を出す。
「この感じでやって欲しいのです」
「こうか?」
俺は駒を持ち、パチンっとバンに打ち付ける。すると、秋根は勢い拍手をした。
楽しそうだ。
「遊星くん今度は関あげるポーズをしてほしいのです」
そう言われ、将棋の七冠王経験のある某棋士の真似をさせられた。
そのポーズをとると、
「強そうなのです!!」
と喜ぶ秋根。
「お兄ちゃんはやっぱり将棋が似合うのです。これから練習して欲しいわ♪」
秋根が楽しそうなら何よりだ。俺はそう思うようにした。
そして将棋が終わると次は続いてオセロや囲碁を一緒にした。
存分に楽しめたと思う。
それにしても、俺の教室は本当に客を放りっぱなしなんだな、と俺は思った。
そう言えば普通のすごろくのような類のものはしてないなとふと思った。
でも、それは別にいいかと思う。
そこまで優先してやりたいわけでもない。
それに飲み物が無くなったし、そこそこ人気があるから段々と混んできたし、そもそもこの空間も飽きてきたしな。
「次は私のところに行きます?」
そう秋根が軽い口調で訊く。それもありだなと思う。
でも、
「俺が行くときは、メイド服を着た秋根がいる時だから」
秋根が居なきゃ意味がない。秋根がいるメイド喫茶に、俺は行きたいのだ。
「そんなに私を求めてるのですか。なるほどなるほど」
秋根はにやにやとして。
「そんなに私の接客をうけたいのなら、是非やるのです。12時に来てね、お兄ちゃん」
「ああ」
「じゃあ、私は、お弁当を買っていきたいな」
そうか、秋根はメイド喫茶にいなくちゃいけない。
そのため、ご飯を食べる時間が無くなってしまう恐れがある。
俺がメイドカフェに昼ご飯を食べに行くという事は、そういう事なのだ。
「なんか、ごめん」
俺はとりあえずそう謝る。
「別にいいのですよ。私は私で楽しむだけなのですから」
そう笑顔で言う秋根。
そして、メイドカフェに秋根が帰る前、最後に俺たちは――
「これいいのです」
そこは、文芸部の教室だった。
そう、文芸部の小説を読むために来たのだ。
「毎年二回、部誌を発行していて。これが文化祭に圧効された分です」
そう言われ本を渡される。
その本はそこそこの厚さで、少し数えた所、88ページあった。
これを高校生がかいたと思えばかなりの量だ。
呼んでみる。中には、ラノベ風の物や、恋愛系の物。そして、文学表現の詰まったものやミステリーまで様々なものがある。
「これみると、小説書きたくなるのです」
そう秋根が小声で言う。
「そうなのか?」
「そうなのです。まあでも、すぐに飽きそうだけどね」
飽きそう。確かにそうだな。
こんなの一作品完成させられるなんて、よほどの情熱がある人か、よほどの暇人だ。
それを考えるとすごいなと思う。
「秋根、これ買うか」
「勿論」
俺たちは部誌を500円出して買った。そして、近くの休憩所に行き、そこでじっくりと読む。
文芸部の教室は読むのにはいいかもしれないが、若干狭かったのだ。
俺たちは小説を読みながら盛大に笑った。
面白い小説にあったのだ。
面白い小説、という表現もおかしい。それは小説と詩の間みたいなものだ。
文体を無視したコメディな詩と小説の融合。
なるほど、常識にとらわれないからこそ、ここまでの作品を読めるんだな。
そう思うと、楽しくなった。
そして秋根がメイドカフェに行く時間がやってきた。
秋根は「名残惜しいのです」と、悲しそうな表情でこちらを見てきた。
「また一緒に回ろうぜ」
俺はそんな秋根に元気よく言う、すると秋根は笑顔になって「約束なのですよ」と言って手を振りながら去って行った。
さて、一人になった。これからどうしようか。




