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クーフス・ポリタラミアの和声

作者: 黒実 音子

ああ、尖度として突如現れ、

呆気なく消えてゆく疫病(エピデミカ)の様な、

[地表の痛み]を

我らの背骨が覚えている。


ユダは何者を裏切ったのか?

何を恐れていた?

魚屋の台の上の死に聞いてみるといい。

ナザレの濁った目の死魚に。


ああ、私は

血走った眼球の、

唸る野良犬の唾液に

悪霊の笑いを見た。

獣自身、己を諫められぬのなら、

それは、災厄に憑かれた

悲しい地表の痛みと何が違う?


------------【伴奏】------------

[ここでギターラが

Ⅰの所在主張の後、

Ⅱの和音を悲し気に響かせる。


ああ、

第七音の予備!!

それは、沼地の泥を

舞い上がらせない為の

静かな借用と、

墓地(トモロ)の様な静寂]

------------------------


人影をした砂嵐の幻影の様に、

イナゴの群れが

死んでは土に還る事を・・

(カーニ)とは、この地上に生えた

蜃気楼である事を・・

本当は肉体労働者(ガニヤン)達の

誰もが知っている。


それでも、約束の時を待ち望み、

人混みの中にキリストを探す者を

誰が責められるだろう・・


ファドは、

ピ・ハヒロトの地を見つけられず、

行き場を失った者達の詩を今日も歌う。

あるいは地表で、

腫瘍と関節炎に苦しむ者達の歌を。


------------【伴奏】------------

[見苦しいピアノによる連続8度の進行・・

連続8度は禁じ手だが、

ゲネサレの荒野で死んだ動物の

腐った臓物と、

不機嫌な犬蠅を表現する時にだけは

適切である]

------------------------


ああ、糞便汚染により増殖した

腸球菌(エンテロコッカス)のワインで乾杯しながら、

貧民は今日も

ムエルト氏と時間氏のチェスに翻弄される。


遠方の死者の悲鳴が、

砂漠の犬の遠吠えが、

開離配分の和声の様に

無様に響くこの地上で、

ファドが何をすべきか

私は知っている。


奏でるのだ!!

今!!

それが何の意味も成さない儀式だとしても!!

それは二度と帰らぬ船に

乗り込む者達に必要なのだから。

教会の鐘の音の様な

ただ、死んだ時間を見送る葬送の音を

ギターラだけが奏でる事が出来る。


大理石上の

白い白骨の様なリュートを弾き、

灰の水曜日に死を演じる悲惨(ピト)道化(ッキ)

悍ましい対斜の音楽を

我々は聴こえないフリをしながら、

口ずさむ。


それが生きる者の苦しみであり、

彼らの音楽は、

不定でなければ意味を成さないのだ。

本当に純粋な音は

今となっては聴こえないから。


------------【伴奏】------------

[ヴィオラ・トイラによる不協和音]

平達五度までを禁じられ、

ストレス過多となった学生が咆哮し、

嘔吐しながら、

客席の方に倒れ掛かる。

混沌としたリスボンの朝の光景。

ああ、墓地墓地墓地・・

墓地で栓を開けられたワイン

そのラベルには

[NOITE SANGRENTA]と記されている。

------------------------


地上に生まれた事を祝福しながら、

それでも、人間など

[神の死体に群がる異常に過ぎない]

という恥辱と、

心臓を銃弾で貫かれる屈辱を

ああ、私達は生まれた時から感じている。


煙突貝(クーフス・ポリタラミア)を発見した漁師達の様な

神の醜い心臓を見た者の

畏れと背徳感をファドは歌う。

それを誰にも悟られずに。

(漁師なら!!

漁師ならそれが出来るのだ。

海で見たものを彼らは

本当の意味では

誰にも語らないから・・)


------------【伴奏】------------

[再びギターラによるⅡの和音の贖罪。

ヨセフの骨という

息苦しさを感じる和音との連結。

人生という調から、やがて死者の調へと

悲しい離脱和音を鳴らし続ける。

やがて、豪勢な棺桶に連結!!

ギタリストは夜の内に

帰り支度をする]


ⅣからⅠに振り下ろされる教会終止。

アーメン・・

------------------------


さぁ、

クーフス・ポリタラミアの和声を

奏でようよ!!


ああ、あらゆるものは去り、

そして、これからも去る。

それを誤魔化す為に

蝦の死骸にテルミドールなどという

気取った名前をつけ、

不気味(カミオネッチ・ファン)(タズマ)

血と銃声を響かせる。

退陣する事すら出来ずに

悲惨(ピト)道化(ッキ)は笑い、

ああ、それでもファディスタではあるならば

涙を流す事なく喪に服し、

敗退していく全ての者の墓地に

古びた楽譜を捧げるべきだ。

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