視察帰り
しかし当日、マージェリーは歓迎会には出席せず、視察のみで帰ることになった。
船員とのくだけた食事会に、一国の姫が同席するのは相応しくないと、国王陛下が判断なさったからだ。
船乗りたちにはどうしても、海の荒くれ者というイメージがつきまとう。
国王に反対されては仕方がない。マージェリーはその決定に従い、視察のみをして王都へ帰り、あとの歓迎会の指揮を取るのは、視察団長のイシュメルだ。
先にマージェリーを王都まで連れ帰るのは、ちょうど地方仕事の帰りにリリローズを通りがかる、他の騎士隊の仕事となった。
その騎士隊を率いるのがランドールであることは、当日に顔を合わせて初めて知った。
「殿下、お迎えに上がりました」
かしこまって言うランドールに、マージェリーは気まずい思いをした。
ここしばらく、ランドールに避けられていることには当然気づいていた。
会いたくなかったであろうに、たまたまここを通りがかる都合で、引き受けざるを得なかったのだろう。
わざわざ同じ馬車に乗り、隣に座ったランドールは、リリローズの港の様子やラバトアとの貿易について話したあと、
「それにしても良かったです。殿下とこうしてお話する機会が得られて、幸運でした。お城では何かと……監視が厳しいものですから」
と柔らかに苦笑した。
「愛されていて何よりだわ」
とマージェリーも薄く笑った。
「……お伝えしたいことが。まだ正式に公表しておりませんが、来月、父と入れ替わりで、キケーロの都へ移る予定です。ソニア姫をお連れして、あちらに居を構えます。新生活に慣れた頃合いで、結婚します」
突然の発表に、冷静なマージェリーもさすがに驚き、動揺した。
「キケーロに移り住むの? 来月ってずいぶん急ね……大丈夫なの? ソニアは大変よ」
「分かっています」
「だったら王都へいたほうがいいわ。お父さまも私も目配りできるもの。あなたは甘やかすだけだから心配だわ。口うるさいことも言って、嫌われる役が必要よ」
「いけません」とランドールが答えた。
「嫌われてはいけません。大丈夫です、私にお任せください。あなたとソニア姫は、距離を置いたほうが良いと、私は思います。公爵家に嫁入りすれば、ソニア姫は殿下と一線を引く身になります。そのほうが良いと、私は考えます」
いつになく強い口調でキッパリと答えるランドールに、これはもう決定事項なのだなと悟った。
「国王陛下も父も、私ならキケーロの新領主としてやっていけると、お認めくださいました。期待以上のものを成し遂げてみせます」
マージェリーは頷いた。
「後のことはイシュメルに引き継いでおります。イシュメルは優秀ですが、口下手で誤解を受けやすいので、そのあたりをフォローいただけたら……あ、」
「なに?」
「えっと……」
「言って」
「誤解を受けやすいのはあなたも一緒だな、と思って。あなたは口数は多いが、誤解されやすい」
「失礼ね」
とマージェリーがわざと怒ってみせると、
「本当、失礼ですよね。すみません」
とランドールは眉を下げた。
「別に誤解なんてされてないわよ。血も涙もない潔癖な女で、口うるさい小姑のような王女よ」
「なんてことを言うんです。違います、あなたは淡々として取っつきにくい人に思われるが、本当は誰より優しくて、情熱を持った人だと。そう言いたかったんです。それに別に潔癖じゃないし。小さい頃、一緒に泥だらけになって遊びましたよね。クッキー作りの途中でクシャミしたり。楽しかったです。それに昔は泣き虫だったし……」
やめて、とマージェリーは思った。走馬灯のようにランドールとの想い出が駆け巡る。楽しかったこと、嬉しかったこと、二人だけの想い出。
「いつから泣かなくなったのでしょうね。お辛いとき、私の前でだけでも泣いてよかったのに」
そんな顔をして、そんなことを言わないで。いま、泣きそうになる。
マージェリーはたかぶる感情をぐっと押さえて、そっと微笑んだ。
「泣いてよかったのに」はすでに過去形だ。
「ありがとう。あなたが大丈夫であるように、私も大丈夫よ。ソニアをよろしくね」




