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戴冠式&婚約発表パーティー


 勇者がアルケハイム国に帰還し、ついに王位を継ぐという知らせを受け、ラバトア国の王太子グリフィンはその戴冠式に出席していた。


 勇者クリーヴランドは思ったよりも若く、想像と違っていたが、柔らかな雰囲気の中に、修羅場をくぐり抜けてきた猛者の顔が見え隠れした。やはり只者ではない。


 アルケハイムの王都に張られていた結界が全解除されていることにもグリフィンは驚いたが、頷けた。

 勇者クリーヴランドがいる限り、結界など必要ない、勇者の絶対的な強さを誇るという表明だ。


 戴冠式でクリーヴランドをジロジロと観察していたグリフィンだが、ふとあることに気づいた。

 アルケハイム国の第二王女の雰囲気が、ずいぶん違っている。


 名はなんと言ったか……前のパーティーで初めて見たときには、ドギツイ色の派手なドレスを着ていて、自己主張が激しかった。


 私を構ってアピールが鼻についたため、天の邪鬼なグリフィンは無視を決めこんだ。すると第二王女はふてくされて、終始ブスッとしていたのを覚えている。


 その第二王女が、別人かと思うほど、控えめになっている。

 シンプルで格式の高そうなドレスは目に優しい色合いで、主役より目立たぬようにという配慮と気品がある。


 緋色の髪もシンプルにまとめられ、化粧も薄い。翡翠色の瞳は伏し目がちで、お付きの侍女に小声でささやく様子も淑女そのものだ。

 いったい何があって、この短期間でこうも変わったのだろう?


 グリフィンがあまりにじっと凝視していたので、視線に気づいたソニアと目が合った。はにかんだように目礼し、すっと逸らされる瞳。


 構って構ってとグイグイこられると引いてしまうが、そっけなくされると追いたくなるのは、男のさがだろうか。


 ソニアの視線の先には、前国王から王冠を授けられた勇者クリーヴランドの姿があった。

 その姿に熱っぽい視線を送っている。


 ああ、そういうことか。とグリフィンは合点した。帰ってきた勇者に惚れてしまったのか。

 しかし、あの勇者にはすでに結婚が決まった相手がいる。十年も前から。


 姉の婚約者に横恋慕するとは愚かな姫だと、グリフィンは憐れんだ。


 そして戴冠式のあと行われた婚約発表パーティーで、度肝を抜かれることになった。

 当然、勇者クリーヴランドとマージェリー姫の婚約が発表されるものと思っていたら、相手が違っていたからだ。


 勇者クリーヴランドと第二王女ソニア。

 王弟の息子ランドールと第一王女マージェリー。

 この二組の婚約が発表されたのだ。

 事前に知らされていなかった招待客たちはとても驚き、歓談の時間には四者への質問攻めとなった。


「あの、わたくしがクリーヴランドさまに一目惚れしたのです。それで無理を申し上げて」


 第二王女ソニアは、しきりに恐縮して言った。


「お姉さまの足元にも及ばないわたくしが、厚かましくも」


「マージェリー姫と決闘してでも、私と結婚したいと言ったんだよね」


 勇者が自慢とも取れる補足を入れた。


「はい。クリーヴ様」


 隣に立つ勇者を見上げ、ソニア姫はとろけそうな顔をした。好きで好きでたまらないという表情。見ている者を恥ずかしくさせる。


「いやぁ、お熱くてあてられますなあ。姫君お二人が同時にご婚約とは、まことにおめでとうございます。ではでは、あちらにもご挨拶を」


 グリフィンはするりとこちらの輪から抜け出て、あちらの輪を目指した。

 輪の中心でひときわ輝く笑顔を放っていたマージェリーが、グリフィンに素早く気づいて、輪から出てきた。


「王太子殿下。お越しいただき、ありがとうございます」


「おめでとうございます、王女殿下。いやあ驚きました。勇者さまのご帰還もですが、勇者さまと結婚するのが妹君のほうだとは。どうして譲られたのですか、もったいない。十年も待ったのに」


 声をひそめもせず堂々と聞かれて、マージェリーは面食らったが笑った。

 ヒソヒソ話で勝手な詮索をされるよりも、ずっと気分がいい。


「良かったんです。夫となるランドールのほうが、気が合いそうなので」


「あらまあ、こちらも惚気ですね。猫しか愛してくれる者がいない私には、面白くない話です」


 グリフィンはそう言って笑った。ズケズケと物を言うが、愛嬌とユーモアがあるので憎めない人物だ。


「猫といえば、私の贈ったラバトア山猫は元気にしていますか?」


「はい、元気にしています。とても愛くるしくて、癒やされる存在です。シーグフリードという名前をつけました」


「ちょっと会えるかな?」


「もちろんです。殿下がお会いくださるとシーグフリードも喜びますわ。あ、でも」


 とマージェリーは少し困った。


「こちらへ連れて来るのが難しくて、あとで場所をご移動願えますか?」


「いいですよ。こちらの会場は料理があるし、猫嫌いのお客人もいらっしゃるでしょうから」


「猫嫌いのお客さま、というより、シーグフリードが嫌っていて全く寄りつかないのです。勇者さまに」


「勇者さまに? なるほど、動物は危険を敏感に察知しますからねえ。虫も殺さないように見えて、ドラゴンもぶっ倒す勇者さまの恐ろしさに気づいてるんでしょうねえ」


 グリフィンはあっけらかんと笑った。


 それを聞いたマージェリーは、シーグフリードが危険を察知できずに、火だるまになった経験があるとは、とても言い出せなかった。

 大切な贈りものが、あやうく丸焦げになるところだったのだ。助かって本当によかった。



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