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容赦のない勇者さま



「もういや、なんでソニアがこんなこと……」


 パーティーの招待客リストをぐしゃっと握り潰して放り投げると、ソニアは書斎机に突っ伏した。

 招待客それぞれの好みを把握して、手土産を手配する。そんなことは外交担当のマージェリーか、その側近どもにやらせればいいのに。今まではそうだったとクリーヴに言ったが、


「これからはソニアさまにお願いします。王妃として大事な公務ですよ。ソニアさまはセンスが良いので、贈り物を選ぶ才能があるでしょう」


 と言うので、引き受けた。買い物好きのソニアにとって、プレゼントを選ぶだけの仕事は簡単で楽しそうだと思ったのだ。

 自分ならこれが欲しいという基準で、ポンポンと選んだ。サクサクこなせた仕事は簡単で楽しかった。


 当然褒められるものと思って提出した手土産リストは、文官のチェックが入り、注意がびっしり書かれた状態で戻ってきた。

 それを読みこんで、もう一度再考しろという。


「馬っ鹿じゃないの。じゃあ最初からお前がやれって話だわ」


 ふてくされたソニアはしばらくブチブチ言っていたが、気分を上げるために他ごとをすることにした。

 そうだわ、戴冠式で着るドレス。新しく仕立てなくても良いとクリーヴは言ったが、クリーヴとデザインを合わせたほうがいいに決まってる。

 一から仕立てるのはもう間に合わないが、今あるドレスを少しリメイクしてもらおう。

 そうと決まれば、ドレスを出してすぐに仕立て屋を呼ばなくては。

 

 弾む足取りで書斎を出ようとしたとき、ノックもせずにクリーヴが入ってきて、危うくぶつかりそうになった。


「おっと、愛しの姫君。どこへ行かれるのかな?」


「クリーヴぅ、会いたかったわ!」


「私もだ。お願いしたリストの訂正はできた?」


「それねえ、やっぱりソニアやめるわ。だってチェックした文官が作れば早いんだもの。ソニアがやった意味ないわ。せっかくがんばったのに台無しよ、ひどいわ。ソニアには、ソニアにしかできないことがしたいの。ドレス選びとか。ちょっと行ってくるわね」


 横をすり抜けようとしたソニアの腕を、クリーヴがぐっと掴んだ。

 その力強さにソニアは驚いた。


「なっ、なに?」


「何もへったくれもありません。机に戻って、続きをしてください」


 ぐいとソニア引き戻したクリーヴは、床に転がっている、握り潰されて捨てられていたリストを目に止めた。

 すっとかがんでそれを拾い、皺を伸ばして広げた。


「一から書き直し」


 シワシワのリストを鼻先に突きつけられ、ソニアはついにキレた。


「偉そうに命令しないで! 婚約したとたん威張っちゃって。なにを勘違いしてるのか知らないけど、ソニアは別にあなたのことなんて好きじゃないんだから。お姉さまがかわいそうだから、身代わりになってあげただけよ」


「そうですか、それはショックだな。『お姉さま』を殴り倒してでも私を勝ち取りたいと言ってくれたのは、ウソだったんだ?」


「ええ、そうよ」


「じゃあ結婚は取りやめる?」


 ソニアは返事に窮した。婚約発表パーティーの招待状は国内外に送付済みだ。今さら取りやめるなんて非常識だとソニアでも思った。

 やめられないと分かっていて言っているのだ、むかつく。


「ええ、できることなら」


「じゃあ私はコベット伯爵家のヴァレリー嬢に求婚するとしよう。先日伯爵にお会いしたときに紹介されて、とても良い感じだったからね」


「は? 急になにを言ってるの。伯爵令嬢に求婚? あなた、この国の姫と結婚したいんでしょ。私か、お姉さまか」


「その姫君にはたった今振られてしまったし、もう一人のお姫さまには相思相愛の婚約者がいるからね。諦めるよ。私だって相思相愛の二人の邪魔はしたくないし、嫌がる女性に無理強いしたくないからね。私のことを熱望してくれる女性と結婚したいと、前に言ったとおりだ。じゃあそういうことで、王様には報告しとくよ。さようなら」


 くるりときびすを返したクリーヴにソニアは慌てた。


「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。待って、そんなの、無茶苦茶よ。お父さまがお認めにならないわ! 勝手に婚約をやめるなんて。伯爵令嬢を王妃に迎えるなんて。誰よ、ヴァレリー嬢って。王族の血縁者じゃないと駄目に決まってるでしょ。王太子を産むんだから。しょうがないから、お姉さまでいいじゃない!」


 ソニアが咄嗟に掴んだのは、クリーヴの腕のないほうのブラウスの袖だった。

 それを手綱のようにぎゅっと握り、ソニアは良い啖呵を切れたことに興奮した。


 振り返ったクリーヴは、ゾッとするほど冷ややかな目をしていた。


「何度も言わせないでください。マージェリー姫とランドールの邪魔をする気は毛頭ありません。王太子はあの二人の子でいいでしょう」


「ま、待って。あ、ソニアが、ソニアが悪かったわ。慣れない仕事でストレスがたまってて、つい、思ってもないことを言ってしまったの。イライラして、どうかしてたの。クリーヴのこと、本当は大好きよ。大好きなの、行かないで」


 とりあえずこの場はこう言っておいたほうが良さそうだと判断したソニアは、ポロポロ泣いて、クリーヴに抱きついた。

 優しく肩を抱いてきた片腕に、ソニアはニンマリした。どんな男も泣き落とせば楽勝だ。


「分かりました、今回だけは大目に見ます。リストの書き直しは明後日までに」


 頭上から降ってきた言葉に嘘泣きが引っ込んだ。


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