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勇者の提案


 王の間で待っていた勇者クリーヴランドは、これまでの庶民的な服装ではなく、王子のような服装に身を包んでいた。


 マージェリーはその姿に驚いた。服装が人の印象を大きく左右することを実感した。

 清潔感があって小ざっぱりしているが、特に目立つところのない容姿だと思っていたが、今ははっと目を引くものがある。


 異国の王子だと紹介されたら、信じてしまうだろう。


「キケーロ行きを取り止めたそうですね。聖女の役割があるからですか?」


「聖女の役割?」


「結界で都や町を守る白魔術師を、聖女と呼ぶんですよね?」


「ああ、他国ではそう呼ぶそうですが、我が国では結界師と呼びます。稀に、男性もいるので」


「王都を離れると、結界が保てなくなる?」


「距離によります。リリローズくらい近ければ維持できますが、キケーロまで離れると無理です」


 何の意図で結界の話をしているのか、マージェリーは掴みかねた。

 

「帰って来たときから思ってたんだけど」と勇者は言った。


「別にもう結界っていらなくない?」


「え?」


「魔族の襲撃、もうないよね? 私のおかげで」


「はい、おかげさまで。でも魔物の大群が来ることは今もありますので」


「それも年に一回、あるかないかでしょう。それに備えて見張り小屋もあるし、門兵もいる。魔族と戦い抜いた優秀な部隊も。彼らに任せればいいじゃない。第一、巨大な防御壁が良い仕事をしてるし。大規模な結界はもう必要ない。聖なる力が消耗するだけだ」


 クリーヴランドが王都の守備について意見を出してくるとは、意外だった。マージェリーは面食らった。


 国王から聞いた話では、クリーヴランドは政治に関心が薄く、国政は今まで通り王族に任せたいという意向を確認できていた。

 クリーヴランドが独自に提案したいことがあったときには、王族の意見を聞くことも了承していた。

 ああこれがそれか、とマージェリーは思った。そしてハッキリと自分の意見を述べた。


「いえ、急に結界を取り払うということは賛成できません」


「どうして?」


「念のためです。続けていれば安心です、私も民も」


「無駄なことを惰性で続けて、犠牲が払われる。思いきって変えたほうがいいと思うけどなあ」


 クリーヴランドは食い下がった。


「なにが犠牲に?」


 マージェリーは眉をひそめた。


「今も言ったけど、あなたの聖なる力。そして自由。都に結界を張ることをやめたら、キケーロだろうが海の向こうだろうが、自由に行ける。ああ、別に都から出て行けと言ってるわけじゃないですよ? どこへでも行けるし、留まることもできる。それが自由ってこと」


 クリーヴランドは軽やかに言い、驚いているマージェリーをじっと見た。


「安心がほしいなら、目の前にいるじゃないですか。私がいますから、結界がなくても大丈夫です。信頼してください」


 黒曜石のようなアーモンド型の瞳が、三日月の形に細められた。

 透明感のある白い肌、薄い唇は乙女のように紅い。十年前のおぼろげな記憶の中の勇者さまと、それらはピタリと重なるような、そうでないような。


「信じてませんね? 分かりました、明日お見せします。私がいかに頼りになる用心棒か。魔物千匹だって軽く倒してみせましょう」


 おかしなことになってしまった。

 勇者クリーヴランドが、マージェリーを連れて山へ魔物狩りへ行くと言い出し、反対意見もあったが、強行されることになった。


 クリーヴランドとマージェリーの二人きりではなく、少数精鋭の近衛兵も同行することになった。当然ランドールも。


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