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婚約破棄と新たな婚約

 

 ランドールとソニアの婚約は破棄され、ソニアは勇者クリーヴランドと新たに婚約を交わした。


 一方的な婚約破棄には、多額の慰謝料が発生するのが普通だが、事情が事情ゆえ、公爵家からの請求はなかった。

 そしてランドールの新たな婚約者となったのは、マージェリー姫だった。それに伴い、ランドールのキケーロ行きはなくなり、代わりに次男のイシュメルが異動することになった。


 国内外の要人を招いての新国王の戴冠式は、ニヶ月後に行われる運びとなった。

 そのときに、それぞれの婚約も発表される。


「すまないな、引き継いだばかりだったのに」


 イシュメルから仕事の引き継ぎを受けながら、ランドールが本当に申し訳なさそうに謝った。


「いえ。次男に生まれた宿命です。都合よく扱われるのは」


「……申し訳ない」


「嫌味じゃないですよ。事実を述べただけです」


 淡々と書類を仕分けながら、イシュメルが言った。


「それに、これで良かったです」


 ソニアがランドールの妻になれば、イシュメルの義理の姉だ。それがとても嫌だったイシュメルの本音だった。

 キケーロへ行けば、マージェリーと兄の仲睦まじい様子を目にすることもない。


 しかしランドールとマージェリーはそうはいかない。王都へ残るということは、あのソニア姫と勇者の夫婦生活ぶりを、嫌でも目にする。


 今は王城で暮らしているスウェイルズ三兄弟だが、結婚して所帯を持てば、それぞれの家を持って独立することになる。

 ランドールたちも結婚すれば王城を出るため、勇者夫妻と毎日顔を合わせなくて済むのは良いが、仕事の兼ね合いもあり、すぐ近くには住むだろう。


 引っ越し予定地をイシュメルが尋ねると、ランドールは少し言いにくそうに答えた。


「王城の、別邸を改修して住む」


 王城の別邸とは、城の敷地内にある、国王の愛人が昔暮らしていた館だ。

 そう、ソニアの母親だ。ソニアの母がソニアを連れて護衛騎士と駆け落ちしたあとは、その別邸は誰にも使われず、幽霊屋敷のようになっていた。


 曰くつきのそこを改修して住むとは。


「もっといいところがあるでしょう」


「屋敷自体は立派なものだ。手入れすれば見違えるだろう。それに、新しい国王陛下をなるべく近くでお支えしたいからな。心配だろ。マージェリー姫も同じ気持ちだ」


 二人がマージェリーのことを王太女殿下と呼ばなくなったのは、マージェリーが次期国王にはならないことが決定したからだ。


 勇者が永遠に帰って来なければ、マージェリーが次期国王となり、生涯独身を通し、ランドールとソニアの子がその次の国王になるはずだった。

 それを思うと、ランドールは勇者クリーヴランドに感謝の念を覚えるのだった。


 勇者らしい好人物ではないが、クリーヴランドが帰還して、ソニアを娶ることにしたからこそ、ランドールはマージェリーと結ばれることができた。

 クリーヴランドが戻らなければ、マージェリーは一生独身だった。クリーヴランドが常識的で期待通りの英雄だったなら、マージェリーと結婚しただろう。

 そのどちらでもなかったからこそ、ランドールはマージェリーへの想いを遂げることができたのだ。


 お国のことを考えれば、喜んではいけないことだとわきまえられるが、ランドールは心のうちで強く感謝した。

 せめてもの恩返しで、ランドールは新国王のサポートに尽力するつもりだ。もちろん元々そのつもりであったが、勇者が期待通りの好人物ではなかった分、周りのやるべきことは多いと感じた。


 マージェリーも同じ気持ちだった。

 勇者クリーヴランドには、一周回って感謝が湧いていた。

 あの厄介な妹を好んで引き取ってくれたのだ。おかげでランドールと結ばれることができた。しかし後は大変だろうと予測できる。

 だからこそ、今まで以上にソニアの言動に注意して、フォローし、仕事もしっかりこなさなくては。

 そう意気込んでいたところ、現国王に王の間に呼ばれた。勇者クリーヴランドから、マージェリーに話があるという呼び出しだった。


 なんだろう?

 もしかして早くもソニアに嫌気が差したという話だったらどうしようと、マージェリーは嫌な予感がした。


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