第三部 終章 学院へ
エレクトリス家とテンペスタ家を相手に模擬戦をしてから数日、俺たちはいつもと変わらず鍛錬に励んでいた。
そして今日、リアナとミルティアーナを伴って馬車で学院に帰る。長いような、短いような、そんな不思議な時間を過ごした夏季休暇だったが悪くない時間だった。
正直来年もまた来てもいいと思えるくらいには、楽しめた。
「それじゃあハヤト、ミルティアーナ、行くわよ」
「ああ」
「うん!」
俺たちは馬車に乗り込もうとした時、
「ハヤト君、ミルティアーナ嬢」
ローゼンハイツ家当主に呼び止められた。
「何ですか?」
「うちに来た初日にリアナを助けてくれた礼をするといっただろう? その品を用意したから二人に受取って欲しい」
そう言ってローゼンハイツ家当主はナイフを二本取り出して俺たちに手渡した。
「そのナイフにはローゼンハイツ家の家紋が刻まれている。君たちは学院にいる間は帝国に保護してもらえる、という話だったがその先は後ろ盾がなくなるわけだからね、何かあった時は今後、そのナイフを見せると良い。大抵のことは解決するはずだ」
なるほど、リアナを助けたお礼の品は家紋入りのナイフと来たか。なんだかんだで公爵家で一番得をしたのはローゼンハイツ家のような気がするな。
「ですがその家紋入りのナイフで悪さをする可能性だってあるんじゃないですか?」
「それについては心配していない」
「何故?」
「心肺停止した娘を助けるような人間が悪行をすると思うかい?」
それを言われてしまうと返す言葉がないな……。
「まあ使いどころがなければそれが一番いいんだ。お守りだと思って持っておいてくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
「それではみんな、息災で」
「ガレス様も、お元気で」
俺たちは挨拶を交わして馬車に乗り込む。そして馬車がゆっくりと学院に向かって進み始める。
今日からまた六日間、地獄の馬車旅だ。
「はぁ、また馬車で六日かけて学院に行くなんて、今から憂鬱だわ……」
「リアナ、そんなこと言ってたら後から本当にしんどくなるよ?」
「でもまた六日間馬車の中で過ごすなんて……」
「まあ俺たちはリアナを弄って遊ぶから暇にはならないだろうな」
「だね!」
「ちょっと! アンタたちあたしをなんだと思ってるのよ!」
なんて言いながらリアナも笑っている。正直、馬車の旅は暑ささえ何とかなれば以外と悪くないと思えるようになった。今となっては前回以上にからかいがいのあるリアナがいるからだろうな。
そんなことを思いながら馬車は進み、晴天の中馬に曳かれて学院へと向かう三日目の昼。
「ねえリアナ」
「何よ、ミルティアーナ」
「ハヤト君に告白したあの時ってどんな気持ちだったの?」
「はぁっ⁉ なんでそんなこと聞くのよ!」
「だって気になるじゃん?」
ミルティアーナが馬車から見える景色に飽きてリアナをからかい始めた。
正直前も言ったが俺の目の前でそういう話をされるといたたまれなくなるからやめて欲しいんだよな……。
だけど暇つぶしにはそれくらいしかすることがないから、俺も話に乗ることにしよう。
「それで、あの時の大声で部屋中に響いた愛の告白はどんな気持ちでしたのかな?」
「知らないしもう覚えてないわよ!」
「あれ? この間はもう隠すことなんてなにもないとか言ってなかったっけ?」
「そ、それとこれとはまた別なのよっ!」
「俺も興味あるな。リアナ、どんな気持ちで俺に告白したんだ?」
俺の言葉を聞いた瞬間、リアナが頬を紅潮させ、
「知らないわよ、バカ」
なんて小さく呟く。
「あー! リアナが乙女モードになってる! 可愛いねぇ」
「み、ミルティアーナうるさいっ! 乙女モードって何よ!」
「え? 頬を染めて、可愛くあざとい態度を取ること?」
「あたしがいつそんな態度を取ったのよ」
「ほんの少し前に取ってたじゃん」
リアナとミルティアーナがまた言い合いを始めている。だが今回は俺もリアナが頬を赤く染めているところを見ているから追撃に参加できる。
「確かにさっきのリアナは頬が赤くなってたな」
「ななななってないわよ!」
「いや、なってた」
「ほらハヤト君もこう言ってるんだから認めちゃいなよ、楽になるよ?」
「何が楽になるのよ!」
と、こんな感じで終始賑やかな旅路となって学院に帰ったのだった。
そして六日の旅を終えて、学院に帰ってきた。そのまま寮の側でリアナと別れて俺とミルティアーナは自室に戻る。
「なんだか学院がすごい久しぶりに感じるね」
「そうだな、たったひと月離れていただけなのに何故か懐かしく感じる」
そんな話をしながら俺たちの自室に辿り着き、中に入るとしばらく換気をしていなかったからか、いやに臭いの籠った空気が漂ってくる。
「流石にこれだけ部屋を空けてたら臭い籠っちゃうかぁ。換気しないとね」
そう言ってミルティアーナが片っ端から窓を開けていく。
そして俺も部屋に入り荷物を下したところで、ツィエラが実体化した。
「はぁ。久しぶりにゆっくりできるわね」
「といっても明後日から後期が始まるけどね」
「じゃあ明日一日はゆっくりしましょうか。ハヤト、今日は何が食べたい? 久しぶりだから張り切って料理をするわよ」
「トマト煮込み」
俺は好きな料理をリクエストしておく。
「ふふっ、ハヤトは本当にトマト煮込み好きよね」
「ツィエラが作るから好きなんだよ」
「あら、嬉しいわ。それじゃあ明日はゆっくりするために今日のうちに買い物を済ませてしまいましょう?」
「そうだな」
「じゃあお姉ちゃんはその間に部屋の掃除をしておくね!」
こうして俺たちは作業を分担して部屋の掃除と買い物を済ませた。
そして夜、久しぶりにツィエラの手料理を食べて、
「ローゼンハイツ家の料理も美味しかったけど、やっぱりツィエラの料理が一番だな」
「そうだね、ツィエラの料理の方が美味しい」
「じゃあローゼンハイツ家の料理人の腕もたいしたことなかったのね」
なんてやりとりをしながら久しぶりの三人の夕食を楽しみ。
それぞれが風呂を済ませた後、
「それじゃあ寝ましょうか」
「そうだね、久々にハヤト君と眠れるよ。弟成分補充しとかないと」
「弟成分ってなんだよ……。あとティアーナ、服は着ろ」
「えー、ツィエラだって来てないんだからいいじゃん」
「俺的に良くない」
なんでこう、十六歳の男の前で下着姿になるんだか……
「さあハヤト、定位置にいらっしゃい」
「ハヤト君、おいで!」
こうして、俺はツィエラとミルティアーナに呼ばれるがまま、ミルティアーナに服を着せるのも諦めてベッドに潜るのだった。
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