第三部 四章 公爵三家(V)
そしてミルティアーナとともに俺の部屋に戻ると、
「あー疲れたぁ……やっぱりエレクトリス家の当主は最悪だったね、ハヤト君」
「だな、まさかあそこまでゴミだとは思わなかった。しかも勝手に身請けの話を進めようとするし」
「しかもあの公爵二家ってしばらくローゼンハイツ家に滞在するんでしょ? どうする? 明日走って学院に帰っちゃう?」
「それもありだな、正直エレクトリス家の当主の顔はもう見たくない。次見たら首を刎ねそうだ」
それほどまでに鬱陶しい人間だった。これだから貴族は……。
そう考えるとローゼンハイツ家は随分とまともだな。俺は今更ながらローゼンハイツ家の評価を改める。
「そういえば、あの場には女の子が二人いたけど、ずっと無言だったね」
「だな、おそらく両家の娘なんだろうけど、あの様子だとあまり家族仲も上手くいってなさそうだな」
「逆に言えばまともな可能性もあるわけだね」
「貴族に期待するだけ無駄だぞ、ティアーナ」
そうだ、貴族に何か期待するのは間違ってる。貴族は自分たちを最優先に考え、自分たちの気に食わないことは問答無用で潰しにかかる奴らだ。
とりあえずもう顔を見たくはないが、おそらく夕食でまた顔を見ることになるだろうからもう少しの我慢だな。首を刎ねないようにしないと。
「そうだ、ティアーナ。今日は同じ部屋で寝よう」
「そうだね、あいつらが何か仕掛けてくるかもしれないし、同じ部屋にいたほうがいいよね」
「ああ、できれば何も起きないといいが、エレクトリス家の当主は何をするか分からないから用心はしておいた方がいいだろう。それで明日の朝に学院に帰ろう」
「そうだね、そうしよっか。リアナには申し訳ないけど、それが最善策みたいだしね」
こうして俺たちは、今日の夕食後の予定と明日の予定を一気に立てて公爵二家から離れることにした。
そして夕食時。
ミルティアーナ結局あのまま俺の部屋に留まり、お互い駄弁りながら時間を潰していた。そうすることで不測の事態に遭っても即座に対応できるし、何より心強いからだ。
そんな中、
「ハヤト、夕食できたわよ」
リアナがいつものように声を掛けに来た。
「分かった、今行く」
俺はリアナにそう答え、
「それじゃ行くぞ、ティアーナ」
「うん」
俺とミルティアーナは部屋を出る。何故か俺の部屋からミルティアーナが出てきたことに不思議そうな顔をしていたリアナだったが、結局何も聞かずに食堂へと向かうのだった。
食堂に到着すると、昨日より人数が増えていた。顔を合わせたくなかった公爵二家もやはり同じ時間に食事をするのか。
そしてそれを疑問に思ったのは向こうも同じらしく、
「おい、ローゼンハイツ公爵。何故我々の食事に孤児が混ざるのだ?」
「もともと私は彼らを客として招いていたのです。そしていきなり返事を聞かずにやってきたのは貴方でしょう? エレクトリス公爵。文句があるなら貴方が席を外すべきだ」
ローゼンハイツ家当主の言葉でエレクトリス家のゴミ当主が黙る。
「しかしハヤト君、今日はずっと帯剣しているんだね」
「ええ、なんせエレクトリス家の人間が近くにいますから」
俺は言外にお前を敵として見ている、と告げて席に着く。
そして無言の空間で公爵三家との食事が始まった。もちろん終始食べ物の味はしなかったし、他の人間の動向に気を付けていたため、食事を楽しむ余裕もなかった。
そして食後の紅茶を飲んでいる時、
「ガレス様、俺とミルティアーナは明日の朝に学院に帰還しようと思います」
さっきミルティアーナと決めたことをローゼンハイツ家当主に伝えた。
そしてその言葉を聞いてリアナが目を見開いて驚いている。
「明日の朝? 随分と急だが、そんなにエレクトリス家とテンペスタ家が近くにいるのが嫌かい?」
「はい。特にエレクトリス家は孤児を炉端の石というほどに毛嫌いしています。そして孤児もその事実を知っているからエレクトリス家は嫌いなんです。近くにいられると気分が悪い」
「貴様、孤児の分際で気分が悪いだと⁉ 孤児とともに食事をさせられた私の気分がどれほど不快だったか貴様に分かるか!」
エレクトリス家当主が吠える。しかし、その場の全員が無視し、テンペスタ家当主が口を開く。
「明日、学院に帰還する前に私たちの娘と模擬戦をしてくれないだろうか」
「何のためにですか」
「私たちの娘は君たちと同じ学院の三年生でね、特別依頼が君たちに回ってしまっている現状が不満らしい。だから模擬戦で力比べをしたいと息巻いていたから連れて来ているんだ」
なるほど。多分、俺たちが編入する前まではあの二人のもとに特別依頼が回っていたのだろう。しかし、俺たちが編入してからは俺たちに特別依頼が回るからそれに不満があると。
「特別依頼を受けたいのでしたら、模擬戦で力比べをしなくてもこちらから学院長に特別依頼は受諾しないと伝えますが?」
「いや、この子たちの目的はあくまで力比べだ。学院長にそう掛け合ってくれるのはありがたいが、実力がないのに特別依頼を受けて死んでしまっては意味がない。模擬戦をしてほしい」
こっちはこっちで面倒だな……。さて、どうする?
と少しの間考えていると、
「分かった、条件付きで模擬戦を受けるわ」
ミルティアーナが返事をしてしまった。
「ほう、条件を聞かせて欲しい」
「もし私たちが模擬戦に勝利したら、即刻ローゼンハイツ家から出て行くこと」
「分かった、それでいい」
「おい、ウェールズ!」
「構わないだろう、ウルス殿。どのみち我々の計画は既に破綻している。帝国に保護されている子供を身請けするのは危険だ」
テンペスタ家の当主は思っていた以上に理性のある人間だったようだ。公爵家の中でも理性だけなら頭一つ抜けているな。
「ハヤト君も、それでいいよね?」
「ああ、それなら構わない」
「ではハヤト君、エレクトリス家がローゼンハイツ家から出て行った場合は学院への帰還は予定通りということでいいかな?」
「はい、それでお願いします」
「分かった」
こうして明日の模擬戦が決まり、俺たちは二人で俺の部屋に戻るのだった。
「にしてもよく模擬戦を受ける気になったな、ティアーナ」
俺は自室に戻ってから、ミルティアーナが模擬戦を受けたことに驚きながら話した。
「うん、よく考えたらあのエレクトリス家の人間をぶっ飛ばせるのって今回しかないんじゃないかなって思って」
「確かに。貴族、しかも公爵家の人間をぶっ飛ばせる日なんてまずありえないからな。いい機会だ、ボコボコにしてやろう」
「だね。それで、どっちがエレクトリス家の相手をする? エレクトリス家には精霊使いがいないから魔術師だけど」
「エレクトリス家の相手は俺がする。多分武器に魔術刻印が施されてるだろうから、霊威を吸収して武器ごと破壊してやる」
「じゃあお姉ちゃんはテンペスタ家の相手だね。思っていたより理性的だからテンペスタ家にはあまり悪印象はないけど、子供の方はしょうもない理由で模擬戦吹っ掛けてきてるし、クピートーで泣かせてやるね」
こうして俺たちは、手短に作戦会議を済ませ、念のために見張り番を交代ですることにして眠りについた。
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