第三部 四章 公爵三家(IV)
翌日。
朝から公爵二家が来る可能性を考えて鍛錬は中止にした。公爵家が勢ぞろいするのが面倒で仕方ないが、ここで迎え撃った方が良い以上我慢するしかない。
心なしかローゼンハイツ家のメイドたちも気持ちが引き締まっているように見える。やはり他の公爵家が来るというのはそれだけ重要なことなのだろうな。
俺はそんなことを考えながら庭園の見えるテラスで紅茶を飲んでいた。今日は朝食後からずっとツィエラを帯剣している。エレクトリス家に対する警戒のためだ。それにこの場なら、公爵二家が来た時にすぐに分かる。庭園の先には門があるからだ。
だからここで紅茶を飲んでいるわけだが、中々来ないな……。
「あら、ハヤト、こんなところにいたのね」
やってきたのはリアナだった。
「ああ、ここからなら公爵二家が来た時にすぐに分かるからな」
「なるほどね。それで、アンタたちはどうしてそこまで公爵二家を警戒してるの?」
「俺たちはローゼンハイツ家に行くなんて誰にも話していないのに俺とミルティアーナに会うためにローゼンハイツ家に来るんだぞ? どこでその情報が漏れたと思う?」
「……言われてみればそうね、どうしてかしら?」
リアナも今更ながら気付いたらしい。
「そしてわざわざ俺たち孤児を目的にしてエレクトリス家が来るってのがもうおかしい。あの家は孤児は炉端の石と同じとか言う家だぞ?」
「……何か孤児だとしても会っておかないといけない理由があるってことかしら? だとしたら能力が高いから身請けの話かもね」
「エレクトリス家だけは絶対に嫌だな。それにこうして無理矢理会いに来るってことは何か情報を握っている可能性もある」
「情報……? あ、もしかしてアンタたちの編入理由?」
「もしそれを知っていたら最悪だな。学院長が帝国と連携して隠蔽した意味がなくなる」
だがその可能性も否定できない以上、警戒しておくに越したことは無い。
その時、ローゼンハイツ家の門が開いた。
その後から見えてくるのは二人の男と二人の少女。おそらくそれぞれの親子だろう。
遂に来たか……。さて、蛇がでるか蛇がでるか、最悪の想定にならないことを祈っておくとしよう。
門から公爵二家の人間が入ってきたところを見た数分後、メイドからエレクトリス家とテンペスタ家が来たことを伝えに来てくれた。そしてさっそく俺とミルティアーナに会わせろ、とのことらしい。まったく、せっかちな奴らだ。
「それじゃあちょっと公爵二家に会ってくる。全員無傷で帰ってくることを祈っててくれ」
「いや、アンタ何しに行くのよ」
「冗談だ」
そう言って俺はメイドの案内に従ってテラスを出た。
そのままメイドに案内されるままに進むと、途中でミルティアーナを連れたメイドと合流した。ミルティアーナと目を合わせて、意思の疎通を図り、場合によっては全面戦争という決意を胸に秘めてエレクトリス家とテンペスタ家の待つ部屋に案内された。
部屋の扉がメイドによって開かれ、中にはさっきの四人とローゼンハイツ家当主が
座っている。俺とミルティアーナは空いている席に座ろうとすると、
「ふん、貴族相手に帯剣して来るとは、礼儀すら知らんのか」
いきなり文句をぶつけてきた。おそらくエレクトリス家の当主だろう。だったら遠慮は必要ないな。
「悪いな、孤児だから貴族相手に使う礼儀とか知らないんだ」
「はっ、これだから孤児は……。」
そんな言葉を聞き流して着席する。すると、
「おい、名を聞いてやる。名乗れ」
さっきの男が不機嫌そうな声で誰何してくる。
「名を知りたければまずそっちが名乗れよ、それが礼儀だろ? 貴族は礼儀も知らないのか」
俺はさっきのお返しとばかりに嫌味を言ってやる。エレクトリス家相手に加減は必要ないからな。
「小僧、立場をわきまえろ、私は貴族だ。場合によっては不敬罪で打ち首にしてもいいんだが?」
「やれるものならやってみろよ。エレクトリス家だかテンペスタ家だか知らないが家もろとも潰してやる」
俺とミルティアーナで殺気を出しながら男を睨むと、流石にひるんだのかこれ以上の口撃はなかった。
「ちっ……。我が名はウルス・エレクトリス。リーゼンガルド帝国三大公爵家の一つである。私は名乗ったぞ、名乗れ、餓鬼ども」
「ハヤトだ」
「ミルティアーナよ」
「つくづく礼儀を知らん奴らだな」
一々悪態を吐かなきゃ気が済まない性格なのか? あいかわらずエレクトリス家はクソだな。
「では、次は私が名乗る番だな。私の名はウェールズ・テンペスタだ。リーゼンガルド帝国より公爵位を授かっている」
「よし、名乗りはこれでいいな。今回、貴様らを特別に我らが身請けすることにした。ありがたく思え」
「断る」
「結構です」
即答で断る。当たり前だ。どうしてこんなに感じの悪い人間に身請けされなければ
ならないのか理解ができない。
「ウルス殿、話が性急すぎる、それでは二人も警戒するだろう」
テンペスタ家当主がエレクトリス家のクソ当主を諫める。
「それにいささか身勝手が過ぎるのでないだろうか。身請けはお互いの合意の上で成り立つもののはずだが」
ローゼンハイツ家当主も口を挟む。
「確かに身請けは互いの合意があって成り立つものだ。しかしこいつらは孤児だろう? 孤児がどうして貴族になれるのに断ることがあるのだ」
どうやらエレクトリス家の馬鹿は自分が貴族で立場のある人間だから断られること
はないと考えているらしい。
「確かに俺たちは孤児だが、帝国から生活費や学費が提供されている。学院卒業後の配属先も既に決まっている。わざわざ貴族なんぞに身請けされる必要はない」
「なんだと? 何故孤児である貴様らが帝国から生活費が提供されている?」
「答える義理はない」
「答えろ」
「断る」
つくづく俺とエレクトリス家の当主とは性格が合わないらしい。どうしてもイライラする。
「小僧、立場をわきまえろと言ったはずだが? 貴族に逆らうということがどういうことか分かっているのか?」
「お前こそ立場をわきまえろ。俺たちは帝国そのものに守られていると言外に言ったつもりだったが、理解できなかったのか? お前が俺を打ち首にでもしてみろ。それは帝国に対して害する行為と変わらんぞ?」
「ぐっ……口の達者な孤児だな」
そんな時、テンペスタ家の当主が口を開く。
「帝国から生活費と学費が出ているのは特待生としてだろうか?」
「そうだ」
「では特待生である理由を聞かせて欲しい」
「それは帝国の機密事項にあたるため話すことはできない。知りたければ帝国の上層部に聞くか、学院長に聞くんだな」
どうやらこの分だと、俺たちがジカリウス教団の暗殺者であることは知らないらしい。だとすると純粋に能力を求めてやってきたというところか。
だがどうして今になって会いに来た? 夏季休暇の最初の二週間は学院にいたのだからその時でも良かったのではないのか?
「だが我々は公爵家だ。公爵家の人間なら理由を聞くことは可能なはずだ。言え」
「断る。現にローゼンハイツ家の次女は俺たちのことを調べようとして、学院長から直々に帝国の機密事項を調べるなと言われている。つまり公爵家の人間にも話す必要はない」
「なんだと? 何故公爵家の人間にまで秘匿される?」
「そんなもの自分で帝国の上層部に聞きに行け。公爵家なんだろ?」
公爵家という爵位に随分とこだわっているらしいからそこを煽ってやればいいだろうと思ってやってみたが効果は覿面だな。エレクトリス家の当主の顔がみるみる赤くなり激昂しているのが分かる。
「貴様! それが公爵家の人間に対する態度か! 立場をわきまえろと何度言えば分かる!」
「立場? お前こそ立場をわきまえろよ? 何故俺たちが帝国に保護されているのか考えていないのか? 俺たちの報告次第で帝国からのエレクトリス家の印象は悪くなるかもしれんぞ?」
「ぐう……何故帝国はこんな炉端の石を保護しているのだ! 理解できん」
「だがこれで計画が破綻したな。我々でローゼンハイツ家に取られる前に二人を引き取る算段が、まさか帝国が二人を保護しているとなると話が変わってくる」
テンペスタ家当主がそう言い、何かを考えるような思案顔になる。
テンペスタ家の当主はエレクトリス家の当主と違って冷静だな。同じ公爵家なのにこうも印象が変わるのか……。まあどう考えようが俺たちの素性にまで辿り着くことは無いだろう。
そこさえばれないのなら、今後もリアナとの付き合い方が変わることも無いし安心できる。
しかしやっぱり身請けの話だったか。本気で承諾されると思っていたのだろうか。孤児にとって公爵家は最悪と言ってもいいほどに印象が悪い。
それに実際に対面してみてもやはり印象は悪い。正直身請けされたら人生の終わりだと思うくらいには印象が悪かった。
その後もあれこれと要求があったり契約している精霊について話せだとか随分と傲慢なことを言われたが、俺たちはなんとかエレクトリス家の当主を殺さずに話を切り抜けることができた。
その間、二家の少女は終始無言だった。
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