第三部 四章 公爵三家(III)
いつものように、鍛錬後のシャワーで汗を流し、ツィエラとベッドで横になりながら雑談をしている。
「そういえばエレクトリス家とテンペスタ家はどうやって俺たちの居場所を突き止めたんだろうな」
「それもそうね、私たちは学院を出る時に行き先は告げなかったはずだけど……もしかしてリアナが乗ってきた馬車かしら?」
「あー、確かに。あの馬車、ローゼンハイツ家の家紋入ってたよな」
「私たちの居場所を嗅ぎつけた理由の一因はそれでしょうね。あとは普段から一緒にいるから夏に公爵邸へ招待している可能性を考えたんじゃないかしら」
仮にこの仮説が正しければ公爵家ってちょっと執着心が強いよな。
「しかしあのエレクトリス家が孤児に目をつけるか、不思議なもんだな」
「そうね、孤児を炉端の石とまで言っていたエレクトリス家でも孤児を取り入れようとするなんてことがあるなんて不思議なことよね」
「帝国の諜報部隊にジカリウス教団の人間が入ったから孤児に対する見方が変わったとか?」
「それはないでしょう、ジカリウス教団はあくまで暗殺組織、孤児院の経営はカモフラージュだったのだから。せいぜいハヤトももしかしたらそういった育ち方をしているかもしれない、と思っているくらいじゃないかしら?」
「その可能性は十分にあるな。それだとミルティアーナが諜報部隊の人間だってばれてる可能性もあるかもしれない」
最悪の場合を考えると、俺たちがジカリウス教団の出身ってバレてると思わないといけないってことか……公爵家で俺たちについて調べるなと釘を刺されているのはローゼンハイツ家のみ。他の二家がどうなっているのかは知らないが、ここに来る以上ある程度は調べているのだろう。
「でも今さらそんなことを気にしても仕方ないわ、もう明日か明後日には来るんでしょ? なら堂々と待ち構えておきなさいな。ハヤトが心配するようなことは何も起きないわよ。私たちより強い精霊使いや魔術師がこの世にいるの?」
「……いない」
「だったらそんな些末な悩みなんて早く忘れてしまいなさい」
「そうだな、さっさと忘れるためにひと眠りするか」
そう言って俺たちは食前の昼寝を始めたのだった。
しかし、ほどなくしてリアナに起こされることになる。
「ハヤト! なんでいつも夕食前に眠るのよ! 起きなさい!」
「ん……ああ、リアナか。もう夕食なのか?」
「そうよ、というか夕食前に眠るのやめなさいよ」
「いや、汗を流した後のベッドってどうしても眠くなるんだよ」
そう言いながら俺はベッドを出る。珍しくツィエラはまだ眠っているみたいだ。ツィエラに薄い掛け布団を掛け、俺とリアナは部屋を出て食堂へ向かうのだった。
食後、部屋に戻るとツィエラは既に起きていた。
「おかえりなさい、ハヤト」
「ただいま、ツィエラ」
そんなやりとりをして部屋の椅子に座る。
さて、楽しい夏季休暇も今日で終わりか。
そう思うとどこか寂しい気持ちになる。今までは夏季休暇なんてものはなくて、ずっとあてもなく旅をしていたから分からなかったけど、こういう限られた休暇って結構ありがたいものなんだな。
なんてことを考えていると、今日も部屋の扉がノックされる。またミルティアーナとリアナが来たのだろう。
返事をして扉を開けると、やっぱり二人がいた。
「今日が実質まともな夏季休暇最終日だから遊びに来たよ!」
「いやここ最近しょっちゅう来てるよな」
「いいじゃん、お姉ちゃんは可愛い弟とたくさん同じ時間を共有したいんだよ」
そう言ってミルティアーナとリアナが俺の部屋に入ってくる。
集まるのはいつも通りベッドの上だ。
「さて、今日で楽しい夏季休暇が最後になるわけだけど、思い出はできたかな?」
「思い出作りより鍛錬ばかりしてた気がする」
「ハヤト君にはとびっきりの思い出があるじゃん」
「とびっきりの思い出?」
「リアナの水着ポロリ」
「ポロリどころかパージしてたけどな」
「いや、アンタたちいい加減忘れなさいよ!」
リアナが顔を紅潮させながら叫ぶ。しかしやっぱり目を閉じて思い返すとあの光景が脳裏に焼き付いているらしく、忘れるのは無理そうだ。
「忘れるのは無理そうだな」
「ならいっそコンプリートしちゃう?」
「コンプリート?」
リアナが首をかしげる。
「そ、ハヤト君はリアナの上半身裸を見たんだから、下半身も見たらコンプリートでしょ?」
「そそそそんなコンプリートさせるわけないでしょっ⁉」
「えー? でもリアナ、もうハヤト君に隠すことないんでしょ?」
「それとこれとは別の話よ!」
そんな話を目の前でリアナとミルティアーナが繰り広げている。
「そもそも俺はリアナの下半身を見せつけられてなんて言えばいいんだ?」
「それはハヤト君、思ったことを言えばいいんだよ。生えてないんだ、とか」
「生えてるわよっ!」
「生えてるんだ?」
「あっ……~~~っ」
被害担当が今日もいじめを受けている。
「ティアーナ、流石にそれは度を越えてないか?」
「そうよ、あたしの尊厳をどこまで踏みにじったら気が済むのよ!」
「いや、今のはリアナの自爆だろ?」
「ちょっとハヤト! アンタどっちの味方なのよ⁉」
「どちらの味方でもないぞ」
こうして馬鹿なことを言い合える平和な日も今日で終わるのかと思うとやっぱり少しだけ寂しいな。なんだかんだで楽しい夏季休暇だった。リアナには感謝しないといけないな。
「リアナ」
「……何よ」
「ありがとな」
「えっ?」
「なんだかんだで楽しい夏季休暇だった」
特に海で泳げたのが良かったな。あれは気持ち良かった。
「何よ、急にどうしたのよ」
「いや、平和な夏季休暇って今日で終わりだから礼くらい言っておこうかと思って」
「そうだね、リアナ、ありがとね」
「ちょっ、二人ともなんで急に改まるのよ」
俺たちが改まって礼を言ったのがそんなにおかしかったのか、リアナは慌てふためいている。
リアナは公爵二家が俺たち目当てで来るってことがただの勧誘程度にしか考えていないだろうな。けど、俺たちは話をせずとも最悪の場合を想定している。俺たちがジカリウス教団の暗殺者であることがリアナにばれる可能性だ。それを考えたら今の内に礼を言っておいた方がいいだろう。
「ま、俺たちにもいろいろあるんだよ」
「そうだね、いろいろあるからね」
そう言って俺とミルティアーナは顔を見合わせて笑う。それを不思議そうにしてリアナは見ているのだった。
今日の夜会は最初のリアナに対するすさまじい変態発言を除けば楽しく平和なものだった。
「それじゃあハヤト君、ツィエラ、おやすみ」
「おやすみなさい、ハヤト、ツィエラ」
「ああ、おやすみ」
そう言って二人は自室に戻って行った。
「最後の夜会、終わっちゃったわね」
「ああ、そうだな」
俺とツィエラが呟く。
下手したら明日で俺たちとリアナの関係性が変わるかもしれない。それを考えてミルティアーナも今日もリアナを連れて俺の部屋に来たのだろう。変態発言はどうかと思うが。
さて、俺も明日に備えて寝るとするか。
「それじゃあ俺はもう寝るよ。おやすみ、ツィエラ」
「ええ、おやすみなさい、ハヤト」
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