第三部 四章 公爵三家(II)
そして翌日。
今日も変わらず鍛錬を続けていた。今はリアナと俺の模擬戦だ。
リアナの大乱炎舞をツィエラで吸収し、接近戦に持ち込む。ここまではいつも通りだ。リアナもあれこれと試行錯誤はしているらしいが、まだまだ甘い。
しかし、今日は少し戦い方を変えたのか、俺がリアナに接近する途中に攻撃がこなかった。直剣の状態で俺を待ち構えている。
何だ? 何を考えている?
そんなことを考えながら俺はリアナに斬りかかる。すると、リアナは刃を合わせるのではなくできるだけ体を動かさず、最小限の動きを意識して俺の斬撃を回避してみせた。今までは接近戦になるたびに刃のぶつかり合いになっていたのに今回は回避を選んだ。これもリアナなりに何か考えたんだろうな。
そんなことを思いながら俺はリアナに刃を振るい続ける。それをことごとく躱し、
躱し切れないものはスネークソードで防ぎ、できるだけ刃を合わせずに戦おうと意識しているのが分かる。
俺と刃を合わせると霊威を吸収されるから? もちろんそれもあるだろうが、そもそも刃をぶつけ合うより回避した方が戦闘としては効率が良い。それも最小限の動きならなおさらだ。おそらくリアナはそれをやろうとしているのだろう。そしてあわよくば俺の体力が切れるのを待っているのか。
それなら、と思い俺は身体強化に回す霊威を増やしてリアナに対する攻撃速度を上げる。
かつてのリアナはこの速度についてこれなかった。しかし、今は俺のこの速度にもついてきている。リアナも身体強化に回す霊威を増やしたのだろう。それは今までの霊威の制御の鍛錬の成果の賜物であり、それを間近で見れるのは中々嬉しいものがある。
リアナが今の速度の攻撃も躱すと判断してもう一段階身体強化を底上げする。するとリアナの回避が段々とおおざっぱになり始めた。おそらくこの辺りが今のリアナの限界なのだろう。
リアナも着実に成長しているな、と思いながら俺はリアナを追い詰めていく。少しずつ、丁寧に回避しにくい場所に刃を振るってリアナにスネークソードを使わせる機会を増やす。そしてそのまま鍔迫り合いに持ち込み、
「今日の模擬戦は結構健闘したんじゃないか?」
「まだ模擬戦は終わってないわよ!」
リアナはまだあきらめていないらしい。一瞬身体強化を底上げして俺を弾くと、少し距離を取った。
改めてリアナを見ると、既に息は荒く、体力は限界に近そうだった。だが、それでも自分の霊装顕現を握りしめ、諦めていない闘志の籠った目で俺を見ている。絶望的な状況からでも活路を見出そうとする目だ。
初めて霊威の制御を見た時はあんなに下手くそだったのに、今となっては帝国騎士に引けをとらず、さらには絶望的な状況でも諦めない不屈の闘志を身に着けて、ほんと、たった数ヶ月でよくここまで育ってくれたよ。
そう思いながらまだまだ成長してもらうために更なる壁となるべく俺はリアナを倒しにかかる。叶うなら、このまま素直に成長してくれますように、と願いながら。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
リアナが地面に仰向けになって倒れ込んでいる。
あの後、結局リアナは体力は底を尽き、霊威は俺に吸収されまくって立つことすらできなくなっていた。
「今までで一番いい模擬戦だったな」
俺は本気でそう思っている。今までは苦し紛れに刃を合わせる接近戦を行っていたのに、霊威の消耗を抑えるために回避に専念するその姿勢、今回が駄目でも鍛錬を続けていけば必ず役に立つ時がくる。
そして、リアナの息が整うのを待ち、
「ねえハヤト」
「なんだ?」
俺が返事をすると、仰向けに倒れているリアナが両手を上げて、
「起こして」
なんて言ってくる。何を甘えてるんだ? というかリアナが俺に甘えるって初めてだな。
「別にいいけど、急に甘えるような真似してどうしたんだ?」
と俺が訝しむと、
「だって、もう隠すことないもの。あの時アンタに全てさらけ出したんだからこれくらいいいでしょ」
そう言ってリアナは俺が差し出した両手を掴み、そのまま起き上がる。スカートに着いた土埃を払ってそのまま鍛錬場の端にいるミルティアーナたちに合流するのだった。
「今日のリアナの戦い方、いつもと違って合理的だったね!」
「そうかしら? だったらいいんだけど。あいつと刃を合わせても霊威を吸収されるから回避の練習をしようと思って試してみたの」
「それで最終的に体力と霊威を根こそぎ持っていかれたわけだ」
「まあね。でもハヤトにも今までで一番いい模擬戦だったって言ってもらえたわ」
リアナとミルティアーナがさっきの模擬戦について語り合っている。そしてその会話をシルフィアが興味深そうに聞いている。
他の公爵家が来るという話があった翌日にこんなハードな鍛錬をしているが、ローゼンハイツ家当主いわく、到着は明日か明後日になるだろうとのことだったから問題はない。
むしろ明日と明後日をどう過ごすかが問題だ。普通に鍛錬して過ごすのもいいが、乱入されるのは面白くない。エレクトリス家の人間は傲慢だからすぐに喧嘩を売ってくるだろう。それを買うのもいいが、できればローゼンハイツ家当主のいる前で戦いたい。確実に庇ってもらえるように証人として連れておきたいのだ。
そんなことを考えながら俺もリアナたちに合流する。
次はミルティアーナとシルフィアの模擬戦だ。ミルティアーナは最初の模擬戦以降、シルフィアに加減しているためある程度は戦いになるが、それでもシルフィアはミルティアーナには勝てていない。武器の相性もあるが、やはりミルティアーナの方が純粋に強いのだ。
そしてミルティアーナとシルフィアの模擬戦を眺めること十数分、ようやく決着がつく。
もちろんミルティアーナの勝利だ。
そして少し休憩を挟み、ミルティアーナと俺の模擬戦を始める。ローゼンハイツ家に来てから、俺たちはローゼンハイツ家の関係者、リアナ以外の目の前では精霊を実体化していない。そのため、ミルティアーナはいつも使う精霊を実体化させる戦法が使えず、不利な戦いを強いられることになる。
風の矢を躱し、魅了の矢を躱し、どんどんミルティアーナに近づいていく。そしてミルティアーナはこれ以上足止めはできないと判断し、霊装顕現を解除して魔術刻印のされた短剣を構えて俺に備える。
かつて、前期ではミルティアーナの短剣に俺は触れないように戦っていた。それはミルティアーナの契約精霊、クピートーが実体化した時に、ツィエラも実体化して戦うと言って手元にツィエラがいなかったからだ。
しかし、今はそんなことはなく、俺の手に収まっている武器はツィエラという例装顕現。これならミルティアーナの短剣の刻印魔術の霊威を吸収できるから安心して刃を合わせることができる。もっとも、ミルティアーナからしたら安心どころか不安でしかないだろうが。
案の定、ミルティアーナの短剣とぶつかり合いになった時、ミルティアーナの短剣から刻印魔術が発動したが、瞬時に霊威が吸収されて不発に終わった。
そこからはミルティアーナの短剣と体術に対応して少しずつ追い詰めていき、最終的に俺がミルティアーナを倒すことになった。
「やっぱり制限があるとハヤト君の相手にならないかぁ……」
「いや、十分に相手になってるだろ」
「でも負けちゃったし」
「たとえティアーナが相手でも俺はまだまだ負けるつもりはないぞ」
「……でも、いつかは追いついて見せるから」
「……ああ、待ってる」
俺たちはそんなやりとりをしてリアナたちと合流する。そろそろ日が暮れ始めた。今日の鍛錬はこのくらいにしておくべきだろう。
「それじゃあ、戻るか」
そう言って俺たちはそれぞれの自室に戻るのだった。
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