第三部 四章 公爵三家
翌日の鍛錬から、シルフィアが加わるようになった。これでリアナは近・中・遠距離の精霊使いとの実戦経験を積めるようになったわけだ。
その効果は思っていたより大きく、リアナがどんどん成長していく。
俺から近接戦の戦い方を学び、シルフィアから中距離の霊装顕現の扱いを学び、ミルティアーナから遠距離型の精霊使いの対処法を学んでいく。
精霊使いとしては既に学院でもトップクラスになってきているだろうな、なんて思いながらリアナとシルフィアの模擬戦を眺める。
霊装顕現の維持もしっかりとできているし、身体強化の練度も良い。大乱炎舞の練度はまだ低いが、これはそのうち慣れていくだろう。それに練度が低いといっても最初と比べると格段に良くなっている。きっとすぐに使いこなせるようになるのだろうな。
そして体術の基本の型もそろそろ馴染んできた頃合いだ。次は組手に移るか、それともまだもう少し基礎を固めるか、中々悩ましいところだ。
そうこう悩んでいる間に二人の模擬戦が終わる。リアナは以前よりマシになったが、まだシルフィアから勝利を掴み取っていない。もちろん、俺とミルティアーナからもだ。
しかし確実に強くなっている。後期の講義ではリアナも実技の単位はSで確約してもらえるだろう。その時間を使って体術を教えて模擬戦をして、学院を卒業する頃にはどれほど強くなっているだろうか。今から楽しみだ。
「はぁ、今日も姉さまに勝てなかったわ」
「たかだか数日で私を超えられるとでも思ったのか?」
「だってこの中で一番勝ち目があるのが姉さまだし」
「それを言われると複雑な気分になるな……」
そう、実はシルフィアとミルティアーナも模擬戦をした。結果、ミルティアーナは手加減をせず、シルフィアを秒で仕留めて勝利した。その直後にシルフィアが自信を失って帝国騎士をやめようとするくらいには酷い模擬戦だった。
そしてさらに、俺とミルティアーナの模擬戦を見たシルフィアは、何故俺たちが学院に通っているのか、今すぐにでも帝国騎士になるべきではないのか、という話を親に持ち掛けたらしい。その結果がどうなったのかは知らないが、間違いなくどこかで握りつぶされるからあまり心配はしていない。
「今日はこんなものか、そろそろ日が暮れるから鍛錬を切り上げよう」
「そうだね、夕食前に汗も流したいし」
こうして四人はそれぞれ自室に戻り、汗を流すことになった。
俺も自室で汗を流し、風呂から出ると、ツィエラがベッドに腰掛けていた。
「結局夏季休暇の間も鍛錬ばっかりだったわね」
「そうだな、もっと街を見たりとかするかと思ったけどそうでもなかった」
「あと一週間くらいで学院に帰るのだから、やり残しとかないようにね」
「ああ、分かった」
俺たちはリアナにローゼンハイツ家に連れてこられてから早二週間が経っていた。あと一週間で学院に帰り、そこからさらに一週間で夏季休暇が終わるのだ。
なんだかんだで長い夏季休暇だったな、なんて思いこの夏の思い出を振り返る。
リアナに連れられて街を見て回り、プライベートビーチで遊び、リアナの上半身をがっつりと目に焼き付け、リアナの盛大な自爆を見せつけられ、シルフィアと庭園を眺めながら紅茶を飲んだ。思い出と言えばそれくらいだろうか?
あとは全て鍛錬だった気がする。リアナの霊装顕現の成功、リアナとシルフィアの模擬戦を見たり、俺がシルフィアと戦ったり、ミルティアーナがシルフィアをこてんぱんにしたくらいだ。
「よく考えたら鍛錬ばっかりだな」
「そうね、こんなに暑いなかよく鍛錬ばかりしていられるわね」
「まったくだ」
そんな話をしていると、いつものようにリアナが部屋まで呼びに来る。
「ハヤト、起きてる?」
部屋の外から声が掛けられる。
「じゃあツィエラ、行ってくる」
「ええ、いってらっしゃい」
そう言って俺は部屋の外に出て、「起きてるよ」とリアナに返答するのだった。
今日の食堂は何故か雰囲気が堅いな、そう思って席に着いた時、ローゼンハイツ家当主から、
「近日中に他の公爵家がローゼンハイツ家に来ることになった。すまない、もしかしたら君たちとかぶることになるだろう」
「なら私たちは明日で学院に帰りましょうか」
ミルティアーナが警戒心全開で言う。ローゼンハイツ家は百歩譲っていいとしても他の公爵家と俺は関わらせたくないらしい。
正直、俺もエレクトリス家とは関わりたくないからミルティアーナの案に賛成だ。テンペスタ家にもいい印象はない。
「いや、それが用があるのはローゼンハイツ家ではなくて君たちみたいなんだ」
「私たちですか?」
「君たちは学院でも有名らしい。上級生を差し置いて特別依頼を学院長から頼まれたりするくらいだ。そしてその情報は公爵家なら手に入れることができる。おそらく君たちを勧誘するつもりなのだろうな」
「私たちが貴族を嫌っていることもそれなりに広まってると思ってたんだけどなぁ」
「それにしてもエレクトリス家か、また面倒な家がくるな」
エレクトリス家の子供には現在、精霊使いがいない。全員魔術師だ。テンペスタ家の子供は全て精霊使いだが、おそらくエレクトリス家は精霊使いを手駒にして戦力を補おうとしているのだろう。今のままだと公爵家の中でも少し劣って見えるだろうからな。
「しかし俺たちが目当てとなると、学院に帰ってもあまり意味はないな」
「だけどこのままここにいても、ローゼンハイツ家に迷惑がかかるよ?」
「道中盗賊の振りして襲って倒すか?」
「いや、アンタたちどんだけ貴族嫌いなのよ」
「貴族を好きになる孤児がいると思うか?」
俺の返事を聞いて、リアナは前期で言い合った貴族にとって孤児は炉端の石、という言葉を思い出したのだろう。反論が出てこないらしい。
夕食を食べながら考える。さて、よりにもよってエレクトリス家が来るとはな。孤児を炉端の石程度にしか見ていないあのエレクトリス家が俺たちの勧誘? もし本当だとしたら相手を殺してしまいそうになるくらいに頭にくる話だ。
夕食を食べ終わり、自室でどうしたものかと考えていると、部屋の扉がノックされる。
「ハヤト君、まだ起きてる?」
ミルティアーナか。一人で考えていてもあまりいい考えは浮かばないし、ミルティアーナも同じことを考えているだろうからちょうどいい。
俺は扉を開けてミルティアーナを部屋に入れる。そして俺、ツィエラ、ミルティアーナの三人でベッドに座って話しをする形になった。まずはツィエラに事の経緯を話すところからだ。
「……そう、エレクトリス家とテンペスタ家が来るのね」
「しかも目当ては俺たちらしい」
「面倒なことになったわね。でも、学院で迎撃するよりここで迎撃したほうがいいんじゃないかしら? ここなら、ローゼンハイツ家の客としての立場があるから、度を超えた態度は取れないでしょう」
「学院なら学院長が抑えてくれるから学院に帰るって手もありだと思う」
「それにローゼンハイツ家が抑えきれるとは限らないよ?」
俺たちは迫りくる公爵家にどう対応するかで話をしているが、どう対策をとっても間違いなく一度は公爵家と会うことになるため今から気分がげんなりしている。
「学院だと万が一戦闘になった時やりにくいでしょう? その点ローゼンハイツ家で暴れても問題にはならない。多少建物が壊れたって私たちの生活には支障はないわ」
「……たしかに、勧誘が目的なら俺たちはどうあっても断る。それに怒って戦闘になる可能性もあるな。相手は公爵家だし、断られる前提ではこないだろう」
「それにここで争えばローゼンハイツ家が証人になるわ。それに対して学院で戦闘をして公爵家の人間に怪我でもさせてみなさい、誰が正当性を証明してくれるの?」
ツィエラが正論を言って俺たちは反論ができなくなる。確かに学院で戦った場合、貴族と孤児だと間違いなく孤児に責任を取らせる方針になるだろう。あの学院長がいるから何とかなるかもしれないが、それでも公爵家が我慢するとは思えない。
「……はぁ、仕方ない。ローゼンハイツ家で迎撃しよう」
「だね、それでこてんぱんにやっつけて二度と関わって来ないようにしようか」
「エレクトリス家に限って言えば加減する必要もないしな。武器も公爵家だから上質な物を使っているだろう。それも破壊してやる。孤児の逞しさを見せてやるか」
結果、俺たちはローゼンハイツ家で公爵二家を待つことにした。
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