第三部 三章帝国騎士との模擬戦、その実力差(IX)
「ハヤト、ねえ、ハヤト、起きなさいってば。これもう何度目よ」
俺は体を揺すられて目を覚ますと、そこにはリアナがいた。今日も起こしに来てくれたらしい。
「アンタ、今日はツィエラに抱いてもらって寝てるなんて、随分と贅沢してるわね」
最初は頭を撫でられていただけだったのに、気付けば抱きしめられていたらしい。
「ハヤトはね、一度抱きしめると大人しくなるのよ。たまに抱きしめ返してくれたりもするから寝てる時はねらい目よ」
「なんのねらい目だよ。それよりもう夕食か?」
「そうよ、夕食ができたからわざわざ呼びに来てあげたのよ。そしたら契約精霊といちゃついてるところを見せられて最悪だわ」
「羨ましいの間違いじゃなくて?」
ツィエラがリアナをからかう。先日の一件でリアナの気持ちは俺たちが知ってしまっているため、今まで以上にからかいの的になってしまうのだ。
「……本音を言うと羨ましいわね」
「あら、もう照れ隠しはやめたの?」
「あの時に恥は捨てたわ、だからもうあたしはハヤトに隠すことなんてないし」
「いや、吹っ切れられても困るんだが?」
俺としては非常に気まずい。自分に好意を向けてくれている身内ではない女の子の扱いとか知らないから本当に困る。
「そう、じゃあハヤト、リアナを抱きしめてあげたら?」
「待て、どうしてそうなる」
「だってリアナが羨ましいって言ってるのよ? ちょっとくらいサービスしてあげてもいいんじゃない?」
そう言ってツィエラはベッドから出てリアナをベッドに乗せる。
いや、リアナもリアナでなんで大人しく従ってるんだよ、いつもみたいに抵抗しろよ!
「さあハヤト、存分にどうぞ?」
「存分にも何もしないぞ?」
「リアナが勇気を出して抱きしめられにきたのに?」
……そう言われると、少し困る。しかもリアナは期待と不安の入り混じった顔をしているし。本当にあの時で吹っ切れたんだな。これでリアナの期待に応えないのは流石に男としてどうなんだ、という思いもあるし、なんだかんだでリアナは美少女だ。抱きしめること自体得はしても損はしない。だから、少しだけ……。
俺は本当に少し、少しの間だけ、リアナを抱きしめた。ゆっくりと背中に手を回すと、リアナの体が跳ねるように反応し、すぐに落ち着いて俺の方に体重を預けてくる。
俺たちは恋人でもないし、身分が違い過ぎて結ばれることもないのに、ベッドの上で上半身だけ起こして抱き合っている。
すぐ側で聞こえるリアナの息遣い、胸に響くリアナの心臓の音。たまに抱きしめるツィエラやミルティアーナと違ってリアナの心音はうるさいくらいに響いていて、緊張しているのだと言外に告げてくる。
その事に気付いて俺まで恥ずかしくなってきてしまい、リアナから離れた。リアナは「あっ」と言いながらも抱擁から手を離し、体を離してお互い顔を見つめ合う。すると、
「リアナ、顔真っ赤じゃないか」
「う、うるさいわね、悪い?」
「心臓の音も凄かったな」
「余計なことは言わなくていいのよ、バカ」
俺たちがそんなことを言い合っていると、部屋の扉がノックされる。あまりにも到着が遅いからメイドが迎えに来たらしい。
俺たちは居住まいを正して、メイドについていき食堂へと向かうのだった。
食堂では今日も珍しい料理が並べられている。おそらく俺が指定した珍しい料理を食べたい、といった要望が今も叶えられているのだろう。そんな料理に舌鼓を打ちながら、今日は珍しくシルフィアに見られることなく食事を終えた。
そして食後、何故かまたリアナとミルティアーナが俺の部屋に来た。
「……今日は何をしに来たんだ?」
「それはもちろん、リアナとハヤト君をからかうために」
「とか言ってるけどリアナはいいのか?」
「あたし、もう恥はないから」
リアナの覚悟が完全に決まっている……。これ、恥ずかしいのは俺だけじゃないの
か?
だがここで断ってもどのみちミルティアーナに押し切られるのは分かっているので、大人しく部屋に入れることにする。
そして今日はベッドに四人で座って話す形となった。
「ねえハヤト君、リアナの気持ちを聞いてからリアナを見る目は変わった?」
「別に、特に変わってないよ」
「あら、さっきはリアナを抱きしめるのにドギマギしてたのに?」
「え? なにそれ! お姉ちゃんその話詳しく聞きたいな!」
「ツィエラ、余計なことは言わなくていいから」
ツィエラの一言でミルティアーナが一人盛り上がっていく。このままだと収拾がつかなくなるぞ!
と思っていたら、
「ハヤト、アンタもあの時緊張してたの?」
リアナがそんなことを言い出す。
「いや、してなかったぞ。俺はツィエラとティアーナで慣れてるから」
「嘘ばっかり、さっきは本当に緊張してたじゃない、リアナを抱きしめる時、少し手が震えてたわよ?」
ツィエラ、頼むから黙っててくれ……。
「……ふうん? アンタもあたしで緊張したんだ?」
「してない」
「意地なんて張らなくていいのに」
何故かリアナまで分かった風になってるんだ?
「いいなぁ、お姉ちゃんも二人が抱きしめ合ってるところ見たかったなぁ」
「見なくていいし見せ物でもない」
「しかも緊張してたってところがいいよね、お姉ちゃんとハグする時なんてもう緊張なんてしてくれないし」
「当り前だ、姉と抱擁して緊張する弟が何処にいるんだよ」
「昔は緊張してたのにね。あの頃のハヤト君をもう一度見たいなぁ」
確かに昔はまだミルティアーナとの抱擁にも慣れていなくて一々緊張していた。それにあの頃は姉弟といってもミルティアーナを年上の女の子としてみていたから気楽に抱擁なんてできなかった。ミルティアーナはそうでもなかったらしいが。
「昔のハヤトってそんなに可愛かったの?」
「そうだよ、昔のハヤト君は人を嫌ってたけど一度懐に入れた人にはすごく優しかったの。そのギャップも可愛かったなぁ」
「俺の昔話とかしなくていいだろ」
「あたしは聞きたいわ」
「お姉ちゃんは語りたいな」
嘘だろ……。
こうして真夏の夜に俺の昔話が始まったのだった。
この日ほど恥ずかしい思いをした日は過去になかった、とだけ言っておこう。
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