第三部 三章帝国騎士との模擬戦、その実力差(VIII)
リアナの霊威が尽きて動けないため、少し休息を取り、リアナと入れ替わって俺が鍛錬場の中央まで歩く。
どうして俺が帝国騎士と戦うことになったんだろうな……。
そんなことを考えながらツィエラを鞘から抜いて構えてシルフィアを見る。シルフィアも俺を見て霊装顕現を再召喚して構えている。手を抜く気はないみたいだ。
「それじゃあ、いつでもどうぞ」
「では、遠慮なくいかせてもらう」
シルフィアが宣言通り、初手から火焔球を放ってくる。リアナの火焔球よりでかいな、やはり年季の差はこの数ヶ月じゃ埋められなかったか。
俺はその火焔球をツィエラで斬って霊威を吸収する。
「何?」
シルフィアは霊威が吸収されるところを見たのは初めてだったのだろう。随分と驚いている。が、今度はこちらの番だ。
「霊威解放・散」
吸収した霊威も使ってシルフィアに霊威の散弾を撃ちだす。威力は控えめにしてあ
るから当たっても問題ないだろう。そう思っていたのだが、
「紅蓮の劫火、原初にして終焉をもたらす因果の焔、時は来たれり、豪炎をもってこの世全ての生を無に帰せ、大嵐炎舞」
シルフィアは回避せず、大乱炎舞で炎壁を作り、霊威の散弾を受け止めて見せた。
どうやらシルフィアは霊威の総量に自信があるらしい。でないと高位の精霊魔術をこんな防御に使ったりしないだろう。
そして大乱炎舞の炎はそのまま俺に向かってうねりを上げながら襲い掛かってくる。
これも俺はツィエラで全て吸収して炎を打ち消す。
「大乱炎舞の炎も消えるのか」
シルフィアはそう呟き、戦法を変えてきた。身体強化を使っての接近戦。さっきリアナがやろうとしていたことをシルフィアがやろうとしている。
だが接近戦は俺が最も得意とする分野だ。このまま近づかせて霊装顕現も打ち消してやろう。俺はシルフィアが近づいてくるのをその場で待つことにした。
そして俺がシルフィアの霊装顕現の攻撃範囲に瞬間、音を置き去りにしたような速さでシルフィアが鞭を振るってきた。
さっきのリアナとの模擬戦は加減してたのか!
鞭の速さが段違いだ。しかも鞭が炎を纏っている。だが、見切れる。速さには自信があるからな。俺は音速を超えた鞭を身体強化した体を駆使してツィエラで断ち斬る。
その瞬間、上手く断ち斬れたらしくシルフィアの霊装顕現が消滅した。
「何⁉」
今度はシルフィアにとって想定外だったらしい。まさか霊装顕現まで打ち消されるとは考えていなかったのだろう。
シルフィアは急遽俺に向かっての前進をやめ、距離を取ろうとするが、今度は俺がシルフィアに近づいてツィエラで斬りかかる。
手始めに上段からの斬り落とし、返す刃で斬り上げ、次いで左肩から右腰までの袈裟斬り、どれもギリギリシルフィアが躱せそうな速度で繰り出していく。そのまま右わき腹から横にツィエラを薙ぐ。しかしシルフィアはこれを後ろに飛んで躱した。
ああ、それは悪手だ。
「霊威解放・散」
空中にいるシルフィアに対して俺は再度霊威の散弾を放つ。流石に空中にいたら躱すことはできない。もう一度大乱炎舞で防ぐかもしれないが、大乱炎舞では防ぐことしかできないのはもう分かっているだろう。もしかしたらまだリアナが使えない精霊魔術を見れるかもしれないな。
しかし、シルフィアは霊威の散弾をまた大乱炎舞で防いだ。そして今回は防ぐだけですぐに炎を消してしまう。攻撃に使うのは無駄だと判断したのだろう。俺はシルフィアの着地地点を狙い、
「霊威解放・斬」
霊威の斬撃を飛ばす。着地と同時に攻撃が当たるように狙われるのは非常に厄介なうえに対処がやりにくい。シルフィアが対処に慣れていなければこれで決まるだろう。
しかし、
シルフィアは再度霊装顕現を召喚して霊威の斬撃を鞭で相殺して見せた。
威力を抑えているとはいえ、随分と危機の対処に慣れているな。帝国騎士はここ数年で弱くなったんじゃなかったのか?
「……初めて見る能力だな、君の精霊は」
「今のところ唯一無二の能力ですから」
「なんともやりにくい……」
そう言いながらも火焔球を放ち牽制してくるシルフィア。俺は全ての火焔球を吸収して自身の霊威に変える。
身体強化を施してそろそろ攻めに転じるか。
俺は一気にシルフィアとの距離を詰めて再度斬りかかる。
シルフィアは速度の急激な変化についてこれず、回避が間に合わない。
これで決まるかと思ったが、シルフィアは霊装顕現を盾にして自身は後退、そのまま霊装顕現を再召喚して構える。
これは、あまり褒められた対策ではないな。しかしそうでもしないとあそこで勝負がついていたのも事実だ。これ以上戦っていてもシルフィアから得られるものもなさそうだし、そろそろ模擬戦を終わらせるか。
俺は身体強化に回す霊威を増やし、地面を蹴ってシルフィアの背後に回り、そのままツィエラをシルフィアの首筋に当て、
「これで詰みだ」
そう言って勝負をつけたのだった。
「お疲れ様、ハヤト君」
そう言ってミルティアーナがタオルを渡してくれる。
「ありがとう、ティアーナ」
大乱炎舞で温度の上がった鍛錬場で模擬戦をしたから、疲れてはいないが流石に汗はかいている。ミルティアーナの好意をありがたく受け取ることにした。
「やっぱり姉さまでもハヤトには勝てないかぁ……」
「でも加減していたとはいえハヤト君相手に結構もった方じゃない?」
「私は加減されていたのか?」
リアナとミルティアーナの話を聞いてシルフィアが問う。
「あたしと一緒にエルネア鉱山の特別依頼を受けた時のハヤトはもっと強かったわよ、姉さま」
「私は加減されたうえでこうも一方的に負けたのか……」
「まあ相手がハヤト君だからねぇ」
正直、これが殺し合いなら初撃で決着がついていた自信がある。そして帝国騎士が弱くなっているというのも事実だと分かった。
最後の苦し紛れの霊装顕現を盾にして後退したあの行動、あれは褒められたものではない。本来なら追い詰められた時のために奥の手くらい用意しておくべきなのにそれを用意していない、かつての帝国騎士とは段違いに弱くなっている。
これは本格的に帝国騎士団の立て直しをしたほうがいいのかもしれないな。
いや、シルフィアはまだ帝国騎士になって一年目ということを考えたらこの程度なのか?
シルフィアの帝国騎士としての経験を考えるとこの程度が普通なのかもしれないな……どのみち立て直しは必要だろうが。
「とりあえず模擬戦は見たしもういいだろ、ここは暑いから早く部屋に戻らないか?」
俺の言葉で全員部屋に戻ることになった。
部屋に戻ってから、俺は汗をシャワーで流し、ローゼンハイツ家に来てから気に入っているベッドにダイブする。このふかふかのベッドが疲れを癒してくれるのだ。
なんて考えているとツィエラが実体化して、
「またベッドでごろごろしてる」
「今日は精神的に疲れたんだ、これくらい許してくれ。ツィエラも一緒に惰眠を貪ろう」
そう言って俺はベッドを叩く。
するとツィエラもベッドに乗り、俺の隣で横になる。お互い横になりながら向き合う形になった。
「さっきのリアナのお姉さんとの戦い、随分と手を抜いていたけど良かったの?」
「問題ないだろ、多分。それにしても弱かったな、しかも最後は霊装顕現を盾にしてたし」
「あれは酷かったわね、相当焦ってたんでしょうけど、精霊を大切にしていないのかと思ったわ」
「今の帝国騎士には胆力というか根性というか、あまりそういうのは好きじゃないけど、そういった気概が足りてないよな。霊装顕現を盾にして霊装顕現を失ったらどうするつもりだったんだろう」
「確かに私たちならあの場であの精霊を消滅させることもできたわけだしね。でももう終わったことよ、それに帝国騎士は私達にはもう関係ないのだから放っておきましょう?」
ツィエラがそう言いながら俺の頭を撫でてくる。
「ツィエラ、俺はもう子供じゃないぞ」
「子供よ、私にとっては一生子供で、弟で、恋人なのよ。リアナにも、ミルティアーナにも恋人役を譲るつもりはないわ」
「そうか」
俺はその言葉を聞いてこれは何を言っても無駄だと悟り、ツィエラのなすがままになるのだった。
そしてツィエラに頭を撫でられていると、次第に眠気に誘われて瞼をおろすのだった。
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