第三部 三章帝国騎士との模擬戦、その実力差(II)
「アンタってほんと規格外よね」
「そうか?」
「そうよ、どうして霊装顕現してる精霊使いに徒手格闘で挑んだ挙句勝つのよ。おかしいでしょ」
「リアナが霊装顕現できるようになってからまだ日が浅いからできることだ。これがティアーナだったら勝てなかったよ」
「はぁ、あたしも早く経験積んで強くなりたいわ。……というかいつまであたしに跨ってるのよ、早くどきなさいよ」
リアナにそう言われて俺は立ち上がってリアナに手を差し出してリアナも立たせる。そして二人でミルティアーナのもとに戻ると、
「リアナ、正拳突き喰らって冷静さを欠いたでしょ? 今回の敗因はそこだね」
「うぅ、やっぱり分かるものなの?」
「分かるよ、それからの一連の動作がもう全然なってなかったから」
「正拳突き喰らった後に剣で俺を斬りつけるなり牽制して多少距離を取っていればまだ模擬戦は続いてただろうな」
「アンタの正拳突き、めちゃくちゃ痛かったんだけど?」
「あれでも加減してる。それに最後のとどめも加減してただろ?」
俺は正拳突きととどめの一撃を加減したと言ったが、
「あれで加減してるとか嘘でしょ! というか最後のとどめはなんか刺し方がいやらしかった」
「ちょっと待て、いやらしいってなんだよ」
「なんというか、あたしの胸を刺すんじゃなくて触れるようなとどめだったわ」
「そりゃ刺すわけにはいかないし、確実に詰みだったから優しくしたんだよ」
「どうかしら? 本当は胸の感触を楽しんでたんじゃないの? このハイグレード変態」
「そうか、優しくしたのは間違いだったか。次からは全力で刺してやる」
「嘘よ嘘! 噓だから優しくしてっ!」
リアナが急に焦りだし、俺に懇願してくる。だが、
「もう遅い。全く、人の優しさに対して変態扱いしてくるとはリアナは酷い奴だな」
「ちが、本当に違うのよっ! なんかハヤトにしては優しかったからついからかいたくなったというか、本当に変態だとは思ってないから!」
「次は俺とミルティアーナ対リアナでやるか、地獄を見せてやる」
「ちょっ! それは戦力差が大きすぎるでしょ! あたしアンタたちどちらにもまだ一回も勝ててないのよっ⁉」
「逆に一回でも勝てたらすごいことだけどね」
ミルティアーナがそう言って話を締めくくる。
そろそろ陽が傾いてきた。鍛錬を切り上げるか。
「陽が傾いてきたから今日の鍛錬はここまででいいだろ、そろそろ屋敷に戻らないか?」
「そうだね、私もお腹空いてきたし、戻ろっか」
「ようやく鍛錬が終わるのね……あたしは今日も大変だったわ」
「大変なのは今だけだよ、卒業する頃には下手な帝国騎士より強くなってるから楽ができるようになるからね」
ミルティアーナの言葉にリアナが顔を輝かせるが、
「帝国騎士になったらなったでまたハヤトとミルティアーナにしごかれる未来が見えるわ」
なんて言っている。
「その未来は訪れないから大丈夫だよ」
「え、どうして?」
「私は入るなら帝国騎士じゃなくて諜報部隊に入隊するし、ハヤト君も帝国騎士より諜報部隊の方に入るんじゃないかな」
「そうだな、俺も帝国騎士より諜報部隊の方がいい」
屋敷へと向かって歩きながら、そんな話をする。
もとより俺は諜報部隊に入隊することを確約したうえで学院に通う事になっている。そしてミルティアーナはそもそも諜報部隊所属の精霊使いだ。だから帝国騎士になるなんてことはありえない。いや、俺は帝国騎士になる可能性があるんだったか?
だが、それもイリスがなんとかしてくれるだろう。だからやっぱり俺は諜報部隊入りだな。
「じゃあ帝国騎士団に入るのってあたしだけなの?」
「俺たちの中だとそうなるな」
「リアナ、戦場で死んじゃ駄目だからね?」
「死なないわよ! というか戦争なんてここ数十年起こってないでしょ」
「ここ数十年は、な……」
先日、聞かされたリーゼンガルド帝国の戦力の低下と周辺国の戦力の増強。この情報が正しければリーゼンガルド帝国は戦争に巻き込まれても仕方がない。そして巻き込まれたらおそらく学院生にも動員がかかるだろう。今の帝国騎士はそれほどまでに弱いからだ。
帝国の国土は比較的大きい。そして地方では食料を生産する畑があったりするので、食料自給率の低い国にとっては是非とも狙いたい場所だろう。
リアナとミルティアーナの雑談を聞き流しながらそんなことを考える。
そして屋敷に戻って一度各自自室に戻って汗を流すことにする。
俺も部屋に戻ってシャワーを浴びて汗を流して風呂から出ると、ツィエラがベッドに腰掛けていた。
「リアナの育成はどう?」
「まずまずだな、霊装顕現できるようになってからまだ日が浅いけど、まあこんなものだろう」
「リアナは学院の卒業後もハヤトと一緒にいることを疑ってなかったわね」
「ああ、帝国騎士団に入るって話か。確かにそうとも考えられるけど、俺は諜報部隊入りだよ。それはツィエラも知ってるだろう?」
「ええ、もちろんよ。一緒に学院長から聞いたのだから」
そうだ、俺は最初から学院長に将来は帝国の諜報部隊入りすることを対価として学院に通っている。帝国騎士も何かしらしようとしているらしいが、俺は間違いなく諜報部隊に入隊するだろうしするつもりでいる。
……そうなると将来のリアナが少し心配だな。俺たち以外の上司に精霊使いとしての戦い方を学び、変な癖がついたりしないだろうか?
せっかくここまでリアナを育てたのに帝国騎士になった途端ダメダメにされたりしたらやるせない。
しかも、そうなる前にリーゼンガルド帝国が戦争に巻き込まれる可能性がある時点でもう嫌な予感しかしない。
「俺たちが学院生の間に戦争って起こると思うか? なんかリーゼンガルド帝国の周辺国は、戦力を増強してるらしいけど」
「それは私にも分からないわ。でも、エルネア鉱山の時といい、サクロム神聖国の国境にでた二体の龍種だったりと戦争になりそうな懸念があるのは確かね」
「だよなぁ、しかも宗教国家って自分たちの神の神託に間違いなしって感じで、人の話聞かないから問答無用で戦争仕掛けてきそうだ」
「そうね、サクロム神聖国は少し怪しいわね、この間の事件の首謀者もサクロム神聖国方面に逃げたのでしょ?」
「ああ、そして軍備を整えている国の一つでもある。リーゼンガルド帝国に隣接しているだけあって警戒してしまうな」
精霊を神聖視しているあの国が戦争を仕掛けることがあるのかとも思うが、実際に軍備を増強している時点で可能性は否定できない。そして仮に周辺国家と結託してリーゼンガルド帝国に攻め込んできたら間違いなくリーゼンガルド帝国は敗北する。
今のリーゼンガルド帝国の帝国騎士団はそれほどまでに弱い。先日の騎士を大量に失ったこともあるが、俺が教団にいた頃の帝国騎士よりずっと弱くなっているのは確かだ。
俺はツィエラの隣に腰掛け、そのまま考えに耽っていると、ツィエラが俺にもたれかかってくる。
「どうしたんだ?」
「別にどうしたってわけじゃないけど、最近は一緒にいる時間が少なくて寂しいわ」
「学院に帰るか?」
「そこまでしなくて良いわよ、こうやってちょっとした時間を一緒に過ごせたらそれで充分よ」
ツィエラは目を閉じ、微笑みながら俺にそう言ってくる。
俺はそんなツィエラの肩を抱き、身を寄せ合って二人だけの時間を過ごすことにした。考え事なんていつでもできる。ツィエラが寂しいと言うのなら、そっちを優先したい。
それからしばらくの間ツィエラと寄り添って静かな時間を過ごしていると、部屋の扉がノックされる。どうやら夕食の時間らしい。
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