第三部 三章帝国騎士との模擬戦、その実力差
ローゼンハイツ家のプライベートビーチで遊んでから一日休み、今日はリアナの霊装顕現を使った模擬戦を行っている。
この夏の間にリアナには霊装顕現を安定して召喚できるようになることと、霊装顕現を維持しながら戦うことを徹底的に覚えさせる方針にした。そのためにも実戦で俺とミルティアーナが代わりながらリアナの相手をしていく。
「リアナ、遠距離の霊装顕現を使う相手に距離取ってたらいつまで経っても勝てないよ?」
「くっ、そんなの分かってるわよ!」
そう言いながらも精霊魔術を唱えてリアナの周囲から大量の燃え盛る火焔が発生し、うねりを上げながらミルティアーナに襲い掛かる。
大乱炎舞。リアナが前期の終了間際に覚えた高位の精霊魔術だ。リアナは俺たちを相手にする時、距離が開いていたら精霊魔術で、距離が近ければ霊装顕現で戦うスタイルを身につけつつある。
しかし、
「大乱炎舞は確かにすごいけど、その精霊魔術を使ってる間は自分の守りがおろそかになるよね?」
そう言ってミルティアーナは襲い来る火焔を避けながらリアナに向けて風の矢を放つ。
リアナは即座にその場から動き始めて矢を躱すが、代わりに大乱炎舞の精度が落ちてミルティアーナへの追尾ができなくなる。
実戦に慣れていないリアナでは同時に二つの行動をまだ上手く行えないのだ。それが分かっているからミルティアーナはそこを突いてリアナに早く慣れろと言外に告げている。
それからリアナは大乱炎舞の使い方を変え、ミルティアーナの動きを制限しにかかった。そしてリアナ自身はミルティアーナに接近戦を挑みにかかる。
確かにこれなら大乱炎舞の精度が多少落ちても問題なく精霊魔術を行使できるだろう。
しかし、リアナは初めて俺とミルティアーナが模擬戦した時のことを完全に忘れているな。ミルティアーナの武器は弓だけではないのだが……。
そしてやはりというか、ミルティアーナは接近してくるリアナにある程度牽制の矢
を放った後、霊装顕現を解除してクピートーを実体化させる。そして腰に隠してある短剣を抜き、リアナと対峙する。完全に接近戦で仕留める構えだ。
「ようやく追い詰めたわよ、ミルティアーナ!」
「本当に追い詰められてるのはどっちだろうね?」
そう言いながらリアナとミルティアーナが刃を交え、いとも簡単にリアナがその場に倒れた。
「ほらね、リアナ。相手が短剣を持っていたら油断しちゃ駄目だよ? 精霊使いの持つ短剣がただの短剣なわけないんだから」
そうだ、ミルティアーナの短剣には雷の魔術刻印が刻まれている。刃を交えた瞬間に刻印魔術を発動することで相手を感電させ、動け失くした後に自身でとどめを刺すか、クピートーにとどめを刺してもらうか、そうやって油断を誘って相手を倒すのだ。
「仕方ないことではあるけど、やっぱり実戦の経験が足りてないね」
「まあ霊装顕現できるようになってからまだ三日だろ? ティアーナ相手によく頑張った方だろ」
俺たちがリアナの評価をしていると、倒れていたリアナがもぞもぞと動き出す。
「いったぁ……ミルティアーナの短剣って魔術刻印が施してあったのね」
「前期で私とハヤト君が模擬戦した時のことを完全に忘れてたね? ハヤト君ですら私の短剣には触れないようにしてたのに、リアナってば簡単に剣を合わせちゃうんだから」
「大乱炎舞で周囲を囲うところは悪くなかったけどな、その後が駄目だった」
「アンタたち相手にどう戦ったら及第点貰えるのよ、これなら姉さまを倒すほうが楽かもしれないわ」
「まあ、普通に考えたらそうだろうな」
リアナの姉、シルフィアは帝国騎士といっても今年入団したばかりの新米だ。ハヤトとミルティアーナの敵ではない。そう考えるなら、リアナは確かに自分の姉を倒す方が楽になるだろう。
「そうだな、折角リアナも霊装顕現できるようになったんだから、もう一度姉に模擬戦挑んでみたらどうだ?」
「えっ⁉ 無理よ無理無理! 流石にまだ姉さまに勝てる自信はないわ」
「でも私は遠距離型の戦闘スタイルで、ハヤト君は近距離型の戦闘スタイルだし、お姉さんに相手してもらったら中距離型の戦闘スタイルの精霊使いとも戦えるよ?」
「それはそうだけど……」
リアナにとって姉と戦うのは何か思う所でもあるのだろうか?
だが今のリアナに必要なのは実戦経験だ。多少姉に思う所があったとしても模擬戦をしてもらうことには大きな意味があるだろう。
「まあ夏季休暇の間に姉に模擬戦はしてもらったほうがいい。そのほうがリアナのためになるしな」
「……分かったわ、一度姉さまにお願いしてみる」
「それじゃあ休憩を挟んだら今度はリアナとハヤト君で模擬戦しよっか」
ミルティアーナの言葉で一度話は終わりになり、日陰に休みに行く。
さて、次はどんな戦術を組み立ててリアナに経験を積ませるか……。
毎回剣というのもあれだし今度は徒手格闘でいくか?
それはそれでリアナにはいい経験になるだろう。徒手格闘で戦う精霊使いはあまりいないが。というかナックル型の霊装顕現は見たことがない。
が、やらないよりはマシだろう。よし、次は徒手格闘で戦う。
少し長めの休憩を取った後、リアナと俺は鍛錬場で対峙していた。
「ねえハヤト、アンタツィエラはどうしたの?」
「今回は徒手格闘で戦うことにした。そういう相手と出くわすことだってあるかもしれないしな」
「徒手格闘? アンタそんなので霊装顕現した相手に勝てると思ってるの?」
「リアナ相手なら勝てる」
俺がそう断言すると、
「言ってくれるじゃないのっ!」
とリアナが霊装顕現を振るってきた。刀身が伸びて鞭のようにしなりながら俺に迫ってくる。
それを俺はかがんで躱し、そのままリアナに接近するべく走り出す。
リアナは俺の接近を阻止するために剣を振るって鞭のように風を斬る音を立てながら俺に斬りかかってくる。
が、まだ甘い。リアナの刀身には伸縮距離に制限がある。そして伸びた状態で剣を振るう回数にも制限があるように思える。でなければ今みたいに途中で一度剣を元に戻すような真似をする必要はないからだ。もしこれがリアナがまだ霊装顕現できるようになって日が浅いからなら問題はないが、本当に制限があるなら少し使い方を考える必要があるな。
しかし今は模擬戦の最中だ。せっかくリアナが刀身を元に戻して接近するチャンスをくれたのだからありがたく有効活用させてもらおう。
俺は身体強化に回す霊威を増やして速度を上げる。そして再度刀身を伸ばしてくるリアナの攻撃を掻い潜り、リアナの正面までやってくる。
そしてリアナの鳩尾に正拳突きを入れる。
「カハッ!」
「一撃くらっただけで意識を乱すな」
そのまま足払いをかけ、リアナを転ばせて、仰向けに倒れたリアナに上にのしかかり、両腕を俺の両膝で抑え、
「象れ、グラディウス」
俺はグラディウスを生成して柄でリアナの左胸を軽く刺す。刺した部分から柔らかい感触が返ってくるのを感じながら、
「これで詰みだな」
と勝利宣言をするのだった。
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