第三部 二章古都の街並み(IX)
「知らん、それはツィエラに聞いてくれ」
「ねえツィエラ、ハヤトに言ってたサービスシーンって何?」
「それはもちろんリアナの胸のことよ。まさかあんなに綺麗にハヤトの目の前で水着のひもがほどけるとは思ってなかったけど」
ツィエラは堂々と答える。
「さっきからずっと砂浜に飛び込んだりして少しずつ水着のひもがほどけそうになっていたのよ、だからそのうちポロリと胸を露出させると思ってたのだけど、まさか胸部装甲をパージするとは思わなかったわ……」
「気付いてたんなら教えなさいよっ! アンタのせいでハヤトに胸見られたじゃない!」
「別にいいでしょ? 女房なんだから胸見られたくらいで騒ぐのはどうかと思うわよ?」
「女房って言うな! ……うぅ、あたし、どんどんハヤトに許してもいない体を知られていってる気がするわ」
「後は下半身を見せたらリアナの体はコンプリートだね、ハヤト君」
「なんのコンプリートだよ……」
でも確かに、リアナの体には触れる機会が多い気がするな。そして今回はがっつりとリアナの胸を見てしまった。おそらくあの光景は忘れることは無いだろう。それくらい鮮烈で、綺麗な印象だった。
「ハヤト、さっきのことは忘れなさい、良いわね?」
「いや、生涯覚えておくよ、リアナの胸は小さいけど綺麗だったってな」
「覚えなくていいからっ! ……うぅ、あたしもうお嫁にいけないわよ……」
「リアナがハヤト君に降家すれば万事解決じゃない? リアナって次女だからローゼンハイツ家を継ぐわけじゃないんでしょ?」
「そういう問題じゃないわよ!」
リアナが割と本気で自分の将来を心配しているみたいだ。
「というかハヤトはなんでもっと早く指摘しなかったのよ!」
「すまん、指摘するべきかどうか悩んでた」
「そう言いながらもがっつりとリアナの胸を見てたわね。視線が釘付けだったじゃない、スパイクの阻止を忘れるくらいに」
ツィエラ、そういう余計なことを言うのはやめて欲しいな。せっかく罵倒されずに済んだのにリアナの罵倒が始まるじゃないか。
「……ということはハヤト、アンタあたしがスパイク打ち込む時からずっとあたしの胸見てたってこと⁉ このハイグレード変態!」
「いや、あんなことになったら茫然とするだろ、仕方なかったんだ」
「ねえハヤト君、リアナのさきっぽはどんな色だった?」
「ちょっ、ミルティアーナ⁉」
「淡い桃色だった」
「あはっ、がっつり見たんだね!」
そう言った瞬間、リアナの顔がさらに赤くなり、自分の胸をかき抱き俺を睨む。
ここまで来たらもう俺も開き直って胸を見たことを仕方ないと割り切ることにした。
リアナには悪いがこの夏の思い出にさせてもらおう。
「夏季休暇にいい思い出ができたね、ハヤト君」
「ああ、そうだな。いい思い出ができた」
「どこがいい思い出よ! あたしからしたら恥をさらしただけじゃないっ!」
「リアナが恥を晒すのって割りといつもじゃない?」
ミルティアーナがリアナの心をめった刺しにしている。人の心を失ったのか?
「どうして……どうしていつもあたしがこういう目に遭うの……? あたし、少し前までは公爵家の次女で成績も優秀で、クラスのみんなからは遠巻きに見られるくらい羨望の的だったのに」
「それはね、リアナ。私達が編入したからだよ。リアナより強い人が二人も編入したらリアナなんてもう霞んで見えちゃうものだよ、だから仕方ないよ」
「つまり、アンタたち二人が元凶ってことね?」
「いや、そもそもリアナにそんな優秀なところはなかったぞ? 初めて会った時は溺れて心肺停止してたし」
「ああ、そういえばそうだったね。じゃあリアナがこういう役割なのは初めからだね!」
そんなやりとりをしている間に喉が渇いてきたな……。
「喉渇いたから一度休憩挟まないか?」
「そうね、私も果実水が飲みたいわ」
そう言ってツィエラはパラソルの方へと歩いて行く。
「ほら、リアナもそんなところでいつまでもうずくまってないで、一度水分補給しに行くぞ」
俺とミルティアーナでリアナを連れてパラソルに戻る。
そして果実水を飲みながらのんびりしていると、
「あたし、ハヤトと出会ってから強さと引き換えに色んなものを失っている気がするわ」
「例えば?」
「ファーストキス」
「心肺停止してたんだから仕方ないだろ? ローゼンハイツ家当主だって咎めなかった」
初日の夕食でリアナに心肺蘇生をしたという話をしたが、それについて感謝はされたが咎められることはなかった。つまりはセーフだ。
「胸も揉まれた」
「心肺蘇生に必要だったんだよ」
「胸を見られた」
「綺麗だったぞ、見惚れるくらいにはな」
「うるさい、バカ」
そう言ってリアナは顔を膝にうずめてしまう。
こうして考えるとリアナとの身体接触率がかなり高い気がするな。初めて会った時は仕方がなかった。他は、膝枕とかはリアナからやってきたことだから問題ないとして、そういえばキスもしたんだっけ? これ、俺が帝国に守られてなければ不敬罪で処罰されていてもおかしくないよな……。つくづく帝国に守られていて良かったと思う。本当に。
そんなことを考えながら膝に顔をうずめたリアナを見ていると、時々リアナがこっちを見て目があってはまた顔をうずめたりしている。
なんだかんだコイツも顔は良いからな、こういう仕草も様になっているというか、美少女っぷりが発揮されている。
思えばリアナと出会ってから、リアナと共に過ごしていない時間の方が少ない気がする。講義のある日はリアナに霊威の制御を教え、リアナから座学を教えてもらって。休日は一緒にチームを組んで依頼を受けて。たまに一緒に夕食を食べて。ツィエラ、ミルティアーナ、イリスを抜けば一番一緒にいる時間の長い人物なのかもしれないな。
そう考えると不思議と愛着のようなものが湧いてくる。叶うなら、俺の秘密がばれることなく卒業して、将来は毎年手紙のやりとりになるかもしれないけれど、細くても良いから縁を繋いでおきたい。
そう考えながら、
「さて、休憩はそろそろ十分だろう、次は何をする?」
「そうだねぇ、ビーチバレーはそろそろ飽きてきたし、また泳ぐ?」
「あたしはもう疲れたわ、心身ともに。だからアンタたち二人で泳いできなさいよ」
「ツィエラはどうする?」
「私はここでのんびりしているわ」
ということで俺とミルティアーナはもうひと泳ぎすることにした。
せっかく海に来ているんだし、こんなに綺麗な海は他にはないのかもしれないのだから、思い出を作ると言う意味でも、もう少し泳いでおくのはありだと思ったんだ。
「それじゃあいこっか、ハヤト君」
「ああ」
俺とミルティアーナが海に向けて歩き出し、ゆっくりと泳ぎ始める。ただ、最初みたいに海中に潜るのではなく、顔を水面に出しながらゆっくりと海の向こうへと進んでいく。
「ハヤト君には嬉しいアクシデントだったね?」
「……まあ、否定はしない」
「正直なところどう⁉ ちょっとは触りたいとか思わなかった?」
正直に言えば、触りたいとは思った。だが流石にそれは駄目だろう。そしてそれを言ってしまえばミルティアーナにからかわれるだろうから、
「ノーコメント」
と返しておいた。
それからしばらく雑談しながら泳ぎ、最初に俺が浮かんでいた辺りまで泳いできた。
「それじゃあそろそろ潜ろうか」
「そうだな、いないとは思うけど、水棲魔獣には気を付けろよ?」
「もちろん分かってるよ」
そんなやりとりをしてからお互い自由に海の中を散策する。魚が泳いでいる横を進み、珊瑚の隙間にいる小魚を見たり、海底にいる蟹が餌を求めて歩いているのを眺め、海底の砂に隠れている魚を見つけて突いてみたり、俺たちは自由に過ごした。
さらに海の向こう側に行ってみると、急に砂浜がなくなり、海底が見えなくなった。多分これ以上は進めないのだろう。これ以上進むなら水棲魔獣がいる可能性も考えないといけない。
そう思って俺は泳いできたルートを戻り砂浜に向けて泳ぎ始めた。そこそこ離れたところにミルティアーナが泳いでいるが、俺と同じでこれ以上先に進むのは危険と判断したんだろう、来た道を引き返している。流石に公爵家のプライベートビーチといっても、海である以上完全に管理することはできない。こればっかりは仕方のないことだ。
途中でミルティアーナと合流して砂浜に戻ると、太陽が海の向こうに沈み始めかけていた。随分と長い時間泳いでいたらしい。
「二人とも随分と長い間泳いでいたじゃない、どこまで行ってたの?」
「海底が見えなくなる場所まで泳いできた」
「私も同じかな」
「そこって水棲魔獣がでるようなところじゃない?」
「出そうだったから引き返してきた。プライベートビーチとしてはかなり広いんだな、ここ」
最後は確かに水棲魔獣がでそうな場所を見つけたが、そこは砂浜からかなりの距離がある。普通に遊んで泳ぐぶんにはなんの問題もないだろう。
「そろそろ日が暮れるから帰りましょう?」
「そうだな、荷物は俺が持つ」
「じゃあぱぱっと帰り支度しちゃおっか」
それぞれが帰宅の用意をし、ツィエラは剣に戻り、俺たちは公爵邸へと帰るのだった。
ローゼンハイツ家に戻ってからの夕食で、ローゼンハイツ家当主のガレスから質問をされた。
「ハヤト君、ミルティアーナ嬢、ローゼンハイツ家のプライベートビーチはどうだったかな?」
「とても良い場所でした。一生忘れられない思い出になりましたよ」
俺がそう言うと、リアナが顔を赤らめながらこっちを睨んでくる。
「私もあんなに綺麗な海を見たのは初めてで、とても楽しかったです」
ミルティアーナもまだ警戒は解いていないが、楽しかったのは事実なので嘘偽りなく返事をしている。
「そうか。楽しんでくれているようで何よりだ。リアナ、残りの滞在期間も二人を楽しませて差し上げなさい」
「ええ、分かっています、お父様」
そんな会話をしている中、リアナの姉、シルフィアはただじっと俺を見つめていたのだった。
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