第三部 二章古都の街並み(VI)
翌日。
真夏の暑い日差し、日差しを反射して白く輝く砂浜。さざ波の心地よい音のする海辺。
俺たちは今、ローゼンハイツ家のプライベートビーチに来ていた。
「……暑い」
「そんなの、海に入ったらすぐ気にならなくなるよ」
「そうよ、海に入ってしまえば暑さなんてへっちゃらよ」
「泳げないのに海に入るのか?」
「うるさい」
リアナは泳げないのに海に入るらしい。また溺れて心肺停止でもしたらどうするんだろうか。
「そんなことよりハヤト君、私達になにか言うことは無いかな?」
ミルティアーナがそんなことを言ってくる。言うこと?
「海で溺れないように」
「違うよ! 水着だよ! どう、似合ってる?」
そう言ってミルティアーナは水着を俺に見せつけてくる。ミルティアーナの水着は白いビキニだ。若干布面積が少ない気がするが、まあそれはいいだろう。
「ああ、よく似合ってるよ」
「ほんと? 良かった!」
ミルティアーナの機嫌は損ねずに済んだらしい。しかし、次にリアナが無言でこちらを見てくる。もしかしてリアナの水着も褒めないといけないのだろうか?
リアナの水着はフリルで腰の周りを隠した水着になっている。これはこれで可愛らしいしリアナに良く似合っている。
しかしそれをリアナに素直に伝えるのはなんだか癪だ。
「リアナ、もしかしてリアナも水着の感想が欲しいのか?」
「は、はぁ⁉ 別に感想なんて求めてないしっ! アンタ、自意識過剰なんじゃないの?」
案の定こうなった。ならリアナの水着は褒めないということでいいだろう。
「じゃあ暑いから俺は泳いでくる。リアナ、後で泳ぎ方を教えてやるから準備運動はしておけよ」
そう言って俺は海に入る。足首からゆっくりと腰、肩と海水に浸っていき、そのまま海に潜って海中の景色を眺める。流石はローゼンハイツ家のプライベートビーチというだけあって海中もすごく綺麗だ。
少し先の海底には赤い珊瑚が見える。魚もちらほらと泳いでいることからここは滅多に使われないのだろうな。
そんなことを思いながら俺はすきに泳いで海中の景色を楽しむ。近くに水棲魔獣がいないかと思って探してみるが、水棲魔獣は見当たらない。流石に貴族のプライベートビーチに魔獣がいるなんてことはないか。
そのまま更に深く潜り、少しずつ砂浜を離れていく。少し泳いだ先に海藻が生えていて海の中で揺蕩っている。その海藻に隠れている魚を見つけたが、驚かすのも悪いから海藻から離れることにした。
一度息継ぎのために海面に浮上すると、思っていたより砂浜から離れた場所まで泳いでいたらしい。遠くではリアナとミルティアーナが準備運動をしている姿が見える。
俺はそのまま海に背中を預ける形にして浮かび、しばらくのんびりとする。海でこんなにリラックスできるとは思わなかったな。特に水中にもぐっている間の音の聞こえ方が面白い。
海面で浮いていると耳が水中に浸かったり空中に戻ったり、音の聞こえ方がころころと変わる。
そんな時、少し離れたところから何かが海中に飛び込む音が聞こえる。
おそらくミルティアーナだろう。リアナは泳げないからここまでこれないだろうし。
しばらくすると、ミルティアーナが俺のもとまでやってくる。
「ハヤト君、海中見た? すごい綺麗だったね!」
「ああ、そうだな。あんなに綺麗な海中は初めて見た」
「他の海中も見たことあるの?」
「……そういえばないな」
「じゃあここがお姉ちゃんと同じで初めての海だねっ!」
確かにそうなるのか? 今まで海辺を通ったことはあったが海に潜ることはなかったからな。
海の良さを俺はあまり考えたことはなかったが、ミルティアーナが行きたいと言ってくれて良かった。俺も海が好きになれそうだ。
それからリアナを見ると、リアナは海に入ろうとしても泳げないからか、こちらまではこれないようだ。
流石にこのまま放置するのは可哀そうだから一度砂浜まで戻るか。
「ティアーナ、リアナを放置すると可哀そうだから一度砂浜に戻る」
「分かった、なんだかんだでハヤト君もリアナを大切にしてるんだね」
「大切だよ、友人として」
「女房としての間違いじゃない?」
「ならその女房を迎えに行くとするか」
そんなやりとりをしながら俺達は砂浜に戻り、
「泳げなくて可哀そうなリアナのために戻ってきたぞ」
「ちょ、あたしは別に戻ってきてなんて言ってないわよ!」
「でもリアナ、さっきから海に入れなくて可哀そうだし」
「ミルティアーナまで酷いわね」
「リアナ、溺れるとか気にしないで泳いでいいぞ? 心肺停止してもまた俺が蘇生してやるから」
初めて会った時に心肺蘇生をした経験から、リアナの蘇生に関しては自信がある。だから遠慮なく泳いでいいという意味で言ったのだが、
「もう溺れて心肺停止なんてしないわよっ!」
「そうか、じゃあ泳ぎの練習でもするか?」
「あたしのことはいいからアンタたちは泳いできなさいよ」
「そういうわけにはいかないよ、せっかく海に来てるんだからリアナも楽しまないと」
ミルティアーナが言う通り、どうせならみんなで楽しんだ方がいいだろう。
このままだとリアナだけ残して泳ぐことになる。それはリアナもつまらないだろう。
「ねえリアナ、私とハヤト君、どっちに泳ぎを教えて欲しい?」
「……なんであたしの泳ぎの練習をする話になってるのよ」
「だってリアナが泳げないと私たちも楽しくないし」
「泳ぎなんて一日で習得できるものじゃないでしょう?」
「私とハヤト君は一日もかからずに習得したよ?」
まあ俺達は教団で泳ぎを学んだからな。泳げなかったら溺れて死ぬだけだし。あの時は必死だったな……。
「それで結局どっちに泳ぎ、教えて欲しいのかな?」
「どっちを選ぶかで何かが変わるの?」
「それはリアナなら分かってるよね?」
なにやらミルティアーナが意味深な事を言っている。リアナは意味を理解しているのか顔を赤くしている。意味を理解していないのは俺だけなのか……。
「それで、どっちにする? オススメは言わなくても分かるよね、リアナ?」
「……じゃあ、ハヤトで」
「だって、ハヤト君。リアナに泳ぎ、教えてあげて?」
「分かった、とりあえず水中に顔をつけて目を開けるところから始めるか」
「それくらいあたしだってできるわよっ!」
リアナが噛みついてくるが、水中に顔をつけて目を開けることができたら川で溺れることは無いと思うんだ。
「それができなかったから川で溺れたんじゃないのか?」
「うっ」
「まあ、今日は泳ぎの基礎だけ教えることにする。別に遠泳をできるようになる必要はないからな」
とりあえずバタ足を教えて、最終的に今日は十メートルくらい泳げるようになればそれでいいだろう。リアナは卒業後はローゼンハイツ領に帰るだろうし、十メートル泳げたら一人で練習できる。
ということで、リアナに泳ぎを教えることになった。
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