第三部 二章古都の街並み(IV)
鍛錬場に着いた後、リアナが早速霊装顕現の練習を始めたが、上手くいかず、俺は昨日ミルティアーナと話したことをリアナに話すことにした。
「リアナ」
「何よ?」
「リアナの霊装顕現の武器についてひとつ思い当たるものがある」
「え? うそっ⁉」
「嘘じゃない、実際に目にしたことのある武器だ」
まあ、目にしたといっても本当に一瞬だったから記憶もあやふやだし正直覚えていないと言った方がいいのかもしれないが。
「それで、どんな武器だったの?」
「スネークソードだ」
「スネークソード? ……ああっ! 刀身が伸びる剣!」
「そうだ。刀身が伸びて切断力のある武器、考えられるのはスネークソードか余程鋭利な鞭のどちらかだ。そしてリアナが初めて霊装顕現した時、明らかに最初は剣の形をしていたからおそらくスネークソードなんじゃないかと思う」
「確かにスネークソードなら私の武器の特徴が一致するわね……でもどうして急にそんなことを?」
「昨日ティアーナと話してる時に思い出した」
流石に任務で倒した相手が使っていたとは言えないが。
「ふうーん? ミルティアーナと話して思い出したってことはミルティアーナもスネークソードの持ち主を知ってるの?」
「持ち主は知らないよ、たまたま見かけただけだから」
ミルティアーナも任務の話は流石にしないらしい。全部たまたまで押し通すようだ。
「まあでも、これでイメージは固まるだろ、改めて霊装顕現、やってみろよ」
「そうね、やってみる」
リアナはそう言って再度霊威を右手に集中させて、
「焔の守護者、紅蓮の獅子よ、今こそ我が契約に従い、汝の力を顕現せよ!」
祝詞を唱えた瞬間、霊威の奔流が発生し、リアナの右手に炎が集まっていく。そしてゆっくりと、炎が形を作っていき、あの時暗殺者の腕を斬り落とした時と同じ炎の剣になった。
しかし、そこから先は何も変わらず、ただの炎が剣の形をしているだけだ。霊装顕現に成功したらちゃんとした武器になる。少なくともただ炎が剣の形をしているだけなんてことは考えにくい。
ということはリアナのイメージがまだ希薄なんだろうな。
だが、以前とは違って今は不完全ながらも炎の剣の維持はできている。霊威の制御に時間を使ってきた成果はしっかりと出ているようだ。
「不完全だけど維持はできてる、こんな霊装顕現は初めて見るね……」
「ああ、リアナの頭でまだスネークソードのイメージが固まっていないんだろうな」
「でもあの状態でも切断力とかはあるんでしょ?」
「人の腕を斬り落とすくらいの切断力はあるな」
「霊装顕現ができるようになったら強力な前・中衛になりそうだね」
ミルティアーナが少し先の未来を考えて話す。けど俺も同じことを考えていた。ここにイリスが加わればおそらく負けなしのチームになれるだろう。
そんな時、
「はぁ、はぁ、はぁ、ねえ! この状態からどうやったら武器になるのよ!」
「それは自分の中で武器のイメージが固まってないからそうなってるんだよ」
「イメージするのは自分が使う理想の武器だよ、リアナ。想像するのはその武器を使って活躍する自分の姿。誰にも負けない相棒をイメージしてごらん」
「イメージするのは自分が使う理想の武器……」
するとリアナは目を瞑り、炎の剣を両手で握り、意識を霊装顕現に集中し始めた。
その状態を俺とミルティアーナが見守ること数分、ようやくリアナの霊装顕現に変化が現れた。
ただの炎の剣が少しずつ小さくなっていき、より剣に近い形になっていく。より洗練され、より鋭利になり、敵を斬るための形になっていく。
そして変化が起こり始めてからようやく、リアナの霊装顕現の刀身が見え始めた。そのまま鍔、柄まで炎が消えてはっきりと形を作る。
こうして、リアナの霊装顕現が成功したのだった。
「リアナ、目を開けて見てみろよ」
俺がそう言うと、リアナはゆっくりと目を開けて自分が握っている剣を見る。
「……あれ? 炎は?」
「さっきからゆっくりと武器に変わっていってたよ、リアナは気付かなかったの?」
「全然気づかなかった」
「ま、何にせよこれでリアナも霊装顕現に成功したわけだ、おめでとう」
俺がそう言うと、ようやく自分が霊装顕現に成功したことに気付いたのか、始めは茫然とした顔で、そしてそこから歓喜の表情で、
「やった、やったわ! あたしも霊装顕現できたっ! これがあたしの霊装顕現!」
そう言いながら自分の霊装顕現を頭上に掲げている。余程嬉しいのだろう、顔が上気し、両頬が赤く染まっている。
「おめでと、リアナ。これで霊装顕現は成功だね。後はその状態を維持しながら戦えるようになれば文句なしで一流の精霊使いだね」
「そうね、これでようやくスタートラインに立てたわ。早速だけどハヤト、ちょっと相手しなさいよ」
「別に良いけどせっかくの霊装顕現が消滅するところを見ることになるぞ? 前期に俺が斧使いと戦った時、相手の霊装顕現がどうなったか忘れたか?」
「うっ……。その、加減を、してくれるとありがたいんだけど……」
「まあいいけど」
俺はツィエラではなくてグラディウスでリアナの相手をすることにした。
「象れ、グラディウス」
妖精魔術で短剣を生成し、リアナ相手に構える。
「それじゃあいくぞ、用意はいいか?」
「ええ、いつでも来なさい!」
リアナの言葉を聞いて、俺は軽く身体強化を掛けて接近戦を仕掛ける。
それに対してリアナは自分の霊装顕現を鞭のように振り、刀身を伸ばして中距離から攻撃してくる。
やっぱりスネークソードだったか……前に遭遇した使い手は秒で始末したからどういう戦い方をするのか知らないんだよな……。いい機会だから勉強だと思うか。
スネークソードの一撃を躱してリアナとの距離を詰める。しかしリアナは、刀身を元に戻して接近戦に対応してきた。
よくもまあその扱いの難しそうな武器で近距離と中距離の使い分けができるな、なんて思いながら鍔迫り合いに持ち込む。
「初めての霊装顕現にしては上手く使いこなしてるじゃないか」
「私も驚いてるわ、何故か使い方を前から知っているかのように扱えるのよ」
「だがその余裕はいつまでもつかな?」
「あら、あたしが霊装顕現して調子に乗っているとでも思ってるわけ?」
「調子に乗っているというより浮かれている、だな。気付いてないのか? 今もこうやって鍔迫り合いをしながらリアナの霊威を吸収していることに」
その瞬間、リアナは顔色を変えて鍔迫り合いをやめて後ろに下がろうとする。
しかし、俺はそれを追撃してリアナから距離を離されないようにする。そしてグラディウスをリアナに向けて振るう。
その度にリアナは自分の霊装顕現でグラディウスを受け止めるため、さらに霊威を吸収されていく。
まさに精霊使いにとって一番嫌な戦い方をされていると言ってもいいだろうな。
ましてやリアナは精霊使いとしては優秀かもしれないが、実戦になれているわけじゃない。こういう時の対策だってできていないだろう。
そうして追い詰められたリアナは刀身を伸ばして大振りの一撃を放ってくる。ああ、それは悪手だ。その隙をついて俺はリアナの首筋にグラディウスを添えて勝負を終わらせる。
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