第三部 二章古都の街並み(III)
「リアナ、以前の暗殺者と対峙した時の霊装顕現の感覚はまだ覚えてるか?」
「ええ、覚えてるわ」
「ならその感覚で一度霊装顕現してみてくれ」
俺がリアナに頼むと、リアナは真剣な表情で詠唱を始める。
「焔の守護者、紅蓮の獅子よ、今こそ我が契約に従い、汝の力を顕現せよ!」
詠唱を始めると同時にリアナの右手に炎が集まり形を成していく。しかしある程度形になったところで炎が霧散してしまい、霊装顕現に失敗してしまった。
「はぁ、駄目だったわ……」
「形までは上手く言ってるんだけどな、あと少しってところで上手くいかないのか」
原因はなんだ? 詠唱に問題はなさそうだし、炎が形になるところまでは上手くいっている。あとは武器にするだけなのにそれが上手くいかない。こればっかりは最初から霊装顕現できていた俺には分からない感覚だな、ミルティアーナも連れてくるべきだったか、と少し後悔していると、
「何が駄目なのかしらね……ハヤトって霊装顕現する時どんな感じでやってるの?」
「俺はいつも剣をイメージしながらやってるな。というよりツィエラと契約した時に
霊装顕現の姿を見てるからイメージが固まってるんだと思う。リアナはまだ自分の霊装顕現を見てないから自分の理想の武器とかをイメージするのがいいんじゃないか?」
「理想の武器? 何がいいかしらね……というより暗殺者と対峙した時のあの武器はなんだったのかしら?」
「あの時の炎、剣の形をしてなかったか?」
「でも伸びたわよ? 伸びる剣なんて存在するの?」
「そういう特性を持った特殊な剣なんじゃないのか?」
だが実際、そういった武器は見たことがない。リアナの霊装顕現は確かに剣の形をしていた。だがあれが剣だとすると刀身部分が『伸びた』ことになる。そんな剣は見たことが無い。
それかあれは実は鞭だった可能性もある。だが鞭に人間の腕を斬るほどの切断力があるのかと言われると答えは否だ。リアナの霊装顕現は謎が多いな。
「過去に伸びる剣が霊装顕現だった一族の人っていないのか?」
「私が知ってる限りだといないわね、大体鞭だったわ」
「鞭だとするとあの切断力が説明つかないんだよなぁ」
「……あたしの霊装顕現、もしかして結構前途多難だったりする?」
「いや、あとはイメージを固めるだけだからむしろあと一歩ってところだな」
それからリアナとあれこれ話合いながら霊装顕現の鍛錬をしてみたが、結局今日は上手くいくことなく夕食の時間になった。
夕食後、俺は自室でツィエラとリアナの霊装顕現について話をしていた。
「リアナの霊装顕現、結局あれはなんなんだろうな」
「さあ? 霊装顕現は精霊と精霊使いの意思によって変わるから対話を重ねないと形は見えてこないんじゃないかしら?」
「ツィエラみたいに勝手に霊装顕現してくれたら楽でいいんだけど」
「そうね、私みたいに親切な精霊だったら良かったのにね」
「いや、ツィエラは俺を殺すために霊装顕現してただろ」
「昔の事を掘り返す男は嫌われるわよ?」
なんてやりとりをしながらリアナの霊装顕現の鍛錬の今後の方針を考える。やっぱりミルティアーナに聞いてみるのがいいだろうな。ミルティアーナは俺と違って自力で霊装顕現まで辿り着いた精霊使いだから俺より適任だろう。
そう考えて部屋を出て向かいの扉をノックする。するとすぐに返事が返ってきて扉が開く。
「あれ? ハヤト君どうしたの?」
「霊装顕現についてちょっと聞きたい事があってな」
「珍しいね、中に入って」
ミルティアーナに言われるまま俺はミルティアーナの部屋に入る。部屋に飾られている武器や絵画の違いはあるが基本的には同じ作りみたいだな。
「それで、どうしたの? ハヤト君が霊装顕現について聞くってことはリアナの事だよね?」
「ああ、今日少しリアナの霊装顕現の鍛錬に付き合ってたんだがあと一歩ってところまではできるんだが成功しないんだ。その理由に霊装顕現のイメージが固まってないからじゃないかと思ってさ。ティアーナは自力で霊装顕現できるようになっただろ? イメージとかってどうやってたんだ?」
「お姉ちゃんはそもそもクピートーが弓を持ってたから自分好みの色の弓をイメージして詠唱したら成功したんだったかな」
……そうだった。ミルティアーナも最高位の精霊と契約しているから武器は精霊自体が扱ってたりしてイメージしやすいんだった。これは盲点だったな。
「てことは武器が何なのか分かってたのか。これじゃあリアナの参考にはならないな……」
「リアナの霊装顕現って不完全だけど一応形にはなるんでしょ?」
「ああ」
「なのに霊装顕現が成功しないの?」
「リアナの場合は中距離型の切断力のある武器みたいなんだ。そんな物に見覚えはないからな……」
それとも中距離型の武器というのが固定概念として邪魔になっているのか? だがリアナの家は代々中距離型の霊装顕現だと聞く。なのにリアナだけ中距離型の霊装顕現ではないなんてことは考えにくい。
「……もしかしてスネークソードなんじゃない?」
ミルティアーナがそう言ってくる。
「スネークソード?」
「ほら、昔任務で討伐した組織の中に使ってる人がいたの覚えてない?」
「……そういえば、いた気がするな」
「あの時はハヤト君が一瞬で倒しちゃったから印象にあまり残ってないけど、確か珍しい武器だなって思って今も覚えてるよ」
そういえば昔、確かにスネークソードを使ってる奴がいたな。だがスネークソードはあんな強力な武器には見えなかったが、霊装顕現ならありえるのか?
「とりあえず明日リアナにスネークソードの話をしてみるか」
「そだね、それが良いと思うよ。リアナも早く霊装顕現できるようになりたいだろうし」
「だな、ありがとう。参考になった」
「ハヤト君の力になれたようでお姉ちゃんうれしいよ。それじゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
俺は自室に戻り、明日はリアナの霊装顕現の練習に付きっ切りで面倒を見てやろうと決めて就寝した。
翌日、朝食時に、
「リアナ、霊装顕現の練習の件なんだけど」
「え? 何かしら?」
「今日一日使って練習してみないか?」
俺は昨日のミルティアーナとの会話を忘れないうちにリアナに伝えておきたくて、リアナに霊装顕現の練習の提案をしてみた。
「あたしは嬉しいけど、ハヤトはそれでいいの? せっかくの夏季休暇なのに」
「別にいい、それに毎日街に行っても面白くないしな」
そう言って食後に出された紅茶を飲む。学院でリアナの部屋に行った時に飲んだ紅茶と同じ味がする。あの時の茶葉は実家から持ってきていたものだったのか。
「それもそうね……じゃあお願いしようかしら」
「じゃあこの後は鍛錬場だね、今日で形になるといいね!」
「そうね、そろそろ形になって欲しいわ。じゃないと霊装顕現の練習と体術の練習でくたくたになっちゃうわ」
そう言ってリアナは紅茶を飲み干す。そして決意を固めた表情で、
「それじゃ、鍛錬場に行くわよ!」
そう言って俺達は鍛錬場に移動するのだった。
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