第三部 二章古都の街並み(II)
「次はどこに行く?」
リアナのその質問に、
「さっきの露天商が集まっていたところに行ってみたい」
(ハヤト、やっぱりさっきの高位精霊が気になるの?)
(ああ、こんなところで売られているってことはそれを買う人間がいるんだろう? 多分何も知らずに買っていく観光客か分かってて買っていく怪しい奴のどちらかだ)
(でしょうね、なんならハヤトが買ってイリスに渡したら?)
(そこまでする必要はないだろ、それに純粋に露店を見てみたいってのもある)
(そう、そのあたりの判断は任せるわ)
そうして俺達は露天商の集まる通りへやってきた。さっき水路で見た時より活気があふれている気がするのは気のせいだろうか?
「さっきより人が増えてるね」
「ここの露店は結構人気なのよ? さっきの舟乗りも言ってたでしょ」
「ハヤト君、ここで見たいものでもあるの?」
「ああ、少し見てくる」
そう言って俺はとりあえず精霊鉱石を売っている露天商のもとへ行く。
「へいらっしゃい! うちは色んな精霊鉱石を扱ってるよ!」
そんな言葉を聞きながら高位精霊が封じられた精霊鉱石を探す。
(ツィエラ、どれか分かるか?)
(最前列の右から二番目ね)
ツィエラの言葉を聞いて指定された精霊鉱石を手に取る。
(封印されてる精霊が何か分かるか?)
(流石に分からないわ、けど随分と強固に封印されてるのね。この分だと封印が解ける事はなさそうだから無視しても大丈夫そうよ)
(分かった)
ツィエラの言葉を聞き、精霊鉱石を元の場所に戻す。他の精霊鉱石を見てみるが、特にこれといった珍しい物は無く、それでいて金額が相場より高かったため何も購入せずにリアナ達の元へ戻ることにした。
「待たせた」
「何か良さそうな物見つけたかしら?」
「いや。特に良い物は見つからなかった」
「そう、じゃあ次に行きましょ、露店はまだまだあるわ」
リアナの言葉を聞いて三人で露店を巡る。この装飾品がどうだのあっちのほうがいいだの、装飾品の話になるとどうして女の子はこんなにも話が長くなるのか不思議で仕方がない。最終的にリアナとミルティアーナはそれぞれ一つの装飾品を買ったようだ。
露店で買い物をして満足したらそのまま昼食を食べ、午後も街の散策をする。
「二人とも行きたい場所ってないの?」
「行きたい場所って言われてもそもそも何があるのか分からないからな……」
「あ、じゃあ私孤児院の様子を見てみたいな」
「孤児院?」
「うん、孤児院を見たらここの領主がどれだけ孤児を大切にしてるか分かるから」
ミルティアーナはまだローゼンハイツ家当主を信用していないみたいだ。正直俺も信用はしていないが、孤児院を確認しようとまでは思わなかった。
「じゃあ近くの孤児院の様子でも見てみる? あまり面白くはないと思うけど」
そういうリアナに付いていき、近場の孤児院に到着する。ただ、敷地の外からでも分かるくらいに活気がある孤児院だ。きっと健全な運営がされているのだろう。でないと子供の笑い声なんて聞こえてこない。ミルティアーナもそれは分かっているらしく、微笑ましそうに孤児院を覗いている。
「俺達のいた孤児院とは大違いだな」
「そうだね、こういう孤児院が羨ましくなっちゃうな」
「これでローゼンハイツ家当主が孤児院を蔑ろにしてないことは分かったか?」
「うん、ちゃんと経営できるだけの資金援助はしているみたい」
「当たり前でしょ、ローゼンハイツ家は真っ当なんだから」
リアナがしたり顔で言う。そしてミルティアーナは満足したような笑顔で、
「私の行きたいところはもうないかな。ハヤト君は行きたいところあるかな?」
「いや、俺ももうない」
「アンタたちもうちょっと街に興味持ちなさいよ……でもそうね、もう見せたいところも見せたし帰りましょうか」
そう言って俺達はそろってローゼンハイツ家に戻るのだった。
そしてローゼンハイツ家に戻り割り当てられた部屋に戻ると、ツィエラが実体化する。
「あの精霊鉱石はなんだったのかしらね」
「ああ、本当になんだったんだろうな」
そして俺はそのままベッドにダイブする。今回ローゼンハイツ家に来て良かったと思える一番の理由はこのベッドだ。体が沈むほどの柔らかさを持った高級品が大層気に入ってしまった。
「本当にそのベッド好きね」
「ああ、今回はこのベッドのおかげでローゼンハイツ家に来て良かったと思えるくらいに気に入った」
そう言うとツィエラも俺の隣、ベッドに腰掛けてくる。
「今日もお昼寝するのかしら?」
「それも良いな、まだ夕食まで時間があるだろ」
「せっかく二人きりなのだからもっと一緒に過ごしてくれてもいいのよ?」
「なら一緒に昼寝でもしよう、本当にこのベッドの寝心地が良くて……」
俺は既に睡魔に襲われ始めていた。意識が沈むのももはや時間の問題だろう。
そんな俺を見かねたのか、ツィエラも、
「仕方ないわね」
そう言ってベッドに入ってくる。思えば、ツィエラと二人で寝るのは久しぶりだな……
「それじゃあお休み、ハヤト」
そう言って俺の意識が沈む間際に、額に柔らかな感触が触れるのだった。
「ハヤト。起きてってば、ハヤト」
無意識の波に揺蕩う意識の中で誰かの声が聞こえる……。俺は眠気をこらえてそっと目を開けると、そこには昨日と同じようにリアナがいた。
「まったく、なんで今日も昼寝なんてしてるのよ」
「ここのベッドの使い心地が最高なんだ、今の内に堪能しておかないと」
「へえ、ベッドとツィエラを堪能してたわけね」
「? なんでツィエラ?」
「アンタ、この状況でどうしてツィエラに何もしてないと思ってもらえると思ってるわけ?」
リアナがそう言いながら毛布を剥ぎ取ると、ベッドには俺と下着姿のツィエラがいた。
……ツィエラ、寝る前は服着てたよな?
「アンタってやっぱり契約精霊とそういうことしてる変態だったのね!」
「違う! そもそもツィエラは寝る時はちゃんと服を着ていた! 俺は何もしてない!」
「そんな言葉信用できるわけないでしょ⁉ アンタ、ツィエラに何したのよ!」
「本当に何もしてない! ツィエラ、起きてくれ! 俺の無実を証明してくれ!」
「……んぅ、そこは駄目よ、ハヤト……」
ツィエラは眠り続けている。そして面倒ごとになりそうな寝言をリアナの前で呟いてくれた。
「……は、ハイグレード変態」
リアナは顔を赤くしながら俺に言う。恐らくがっつリアナの妄想力であらぬ想像をしてしまったのだろうが、俺とツィエラにそんな事実はない。
「リアナ、断じて、断じて俺とツィエラはそういった関係じゃない、信じてくれ」
「嘘よ、じゃあなんでツィエラが下着姿で寝てるのよ」
「それはツィエラに聞いてくれ」
俺に聞かれても困る。というか俺じゃ分からない。というかなんでリアナが俺の部屋にいるんだ?
「そういえばリアナ、どうして俺の部屋にいるんだ? まだ夕食の時間じゃないだろ?」
「あ! そうよ、もともとハヤトに霊装顕現の練習に付き合ってもらおうと思ってここに来たのよ。そしたらアンタまた寝てるし。しかもツィエラと」
なるほど、霊装顕現の鍛錬がしたかったわけか。確かに学院では霊装顕現の練習はしてこなかったからな。この夏季休暇で纏まった時間のあるうちに鍛錬するのもいいだろう。
「霊装顕現の鍛錬ね、了解。今からだと二時間くらいは鍛錬できるな」
「そうね、できればこの夏季休暇の間に霊装顕現できるようになりたいわ」
「霊威の制御自体は出来てるんだからいけるだろ。それじゃあ鍛錬場に行くか」
そう言って俺達は鍛錬場に向かったのだった。
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