3話
「おう、お帰りちゃん」
古い建物の真新しい扉を開けてギルドホールへ顔を出すと、奥のカウンターから気の抜ける言葉が投げられる。
「ただいまくん、セブン」
金髪碧眼のナイスミドル、ギルドマスターのセブンだ。
机上で何やら作業をしながら、柔らかい笑顔を向けてくれる。
「無事に終わったか? 怪我ぁねえか? あの後の一発目だからな、もっと軽いのにしとけって言ったのによ。あのおチビさん聞かねえからよ、心配したぜ」
「いつも通りこれまで通り、簡単に終わらせてたよ」
「そいつぁ何より。凄いねぇ、認定勇者様御一行は」
「いや本当だよ」
全く、みんな凄いよ。
「自分は違いますってか。まあな、お前がそう思うのも無理はないか」
セブンは手に持った車輪を眺めて笑う。
「俺が造った車輪のお陰で、微量の魔力を流してやれば誰でも重い荷車牽けるようになっちまったからなぁ。運搬のアビリティはレアなのに無駄アビ扱いだ」
「扱いってか、実際無駄だし」
「ふふっ、いや、んなこたぁねえぜ? ほら、あれだろ、荷物の積み込みも下ろすのも、運搬アビがありゃ楽勝だろ? 便利じゃねぇか」
「…………」
「…………」
セブンはニコっと固い笑みをつくり、
「ああっと、魔石の買い取り……な? どうだった? 文字入りあったか? あったら俺と直接やり取りしない?」
と話題を変える。
「今回は無し」
「そいつは残念賞。まあ、基本は無いものだからな。しゃああんめえ」
セブンはカウンターの上に転がした魔石を数えて、布袋から出したコインを弾いた。
「色付けといた。復帰祝いだ」
「勝手にいいの?」
「良いに決まってんだろ? ギルド長だぞ俺ぁ」
「ミマさんに怒られるよ」
「……やっぱ返してくれる?」
弱いなギルド長。
「返却不可です。大丈夫、言わないから。ありがとセブン」
小走りでギルドを出ていく。後ろから、
「まあ、別にあれだけどな。ミマさんなんざ全然あれだしな、こわくねえけどな……」
そんな独り言が聞こえる。
ミマさん凄く優しいけど、凄くこわいからなぁ。
夜の町をゆるやかな風が抜けていく。嵐のような風の吹く季節も終わりを迎え、もう少ししたら雨が続くのだろう。
それが過ぎれば暑い日々。
「過ごしやすい季節ほど、短いなぁ」
争いと争いの間を平和と呼ぶのです。
なんて、どこかで誰かに聞いたような。そんなつかの間の平和のような夜を、静かに歩いていく。
「確かサーモン亭だったか」
本日のパーティー会場はギルドから東へ少し歩いた所。
サーモン亭は、お金持ちがくる場所って程でもないが、庶民には少しお高いお店。特別な時にくる感じ。
窓から漏れだす灯りと賑やかな笑い声が、後から合流する側としては何となく入りにくい。本当に何となくなんだけど。多分、温度が違うからだろう。心の。
そんな、なんとも言えない気持ちで、サーモン亭の扉を開ける。