2話
「文字入りありました?」
レラの問いに、
「……さあ?」
「どうかしら?」
コクロとシィラが答える。いや全然答えになっていないのだが。
「作業してねえヤツらが一番に答えんな面倒くせえ! ……こっちはねえな。ダンの方は?」
「同じく2号。今回はまあ、ハズレだな」
荷車を牽きながらの返答。数はいたが、全て文字無し。まあ特殊な個体もいなかったから当然か。
「そうですか……。魔石売ったお金でぱーっとやりたかったんですけどね」
魔獣の心臓付近には必ず魔石がある。高い身体能力や、異常な成長速度はこれが原因だと言われている。その魔石は魔道具のエネルギー源として活用されている為、ギルド等で売れるのだ。
魔石の中には稀に、特殊な文字が刻まれているのがある。文字入りと呼ばれ、討伐者のアビリティのような不思議な力が込められている為、高値で売れる。
「いやまあ、こんだけ数ありゃぱーっとはやれるだろ」
「うん」
ウォンの言う通り。普通のパーティーなら壊滅していただろうなぁってくらいは数がいたので、収入としては中々のものにはなる。それとは別に普通報酬もあるし。
「え、じゃあ復帰任務無事完了記念アンド勇者パーティー認定おめでとうパーティーやりましょうよ!」
長い。
「めんどくせぇ」
「ウォンさん酷い! あー、ウォンさんダメですよウォンさんこれはダメ、これはダメだわー。和をもって尊しとなさないとー。尊しとなさないとー。だから友達いないんですよウォンさん」
「……めんどくせぇ」
「まあまあ、良いじゃない。シィラさんそのパーティー賛成賛成~。みんなで楽しく呑みましょう~」
「流石シィラさん! 和をもって尊しとなしてる~!」
「でしょ~? まあシィラさんも友達はあんまりいないんだけどね……」
今さらっと悲しい事を。
「私もパーティー賛成派。丸焼きを頼む。何かの丸焼き。一人では食べきれない何かの丸焼きを頼む。絶対に」
固い意思。よだれ出てるぞコクロ。
「…………」
「…………?」
レラが無言で視線を送る。何?
「いやなんで黙ってるんですかダンさん! ダンさんは行きますか行きますよね和をもって尊しとなしますよね!?」
「……あ、俺も行っていいの?」
「そりゃあそうでしょうよ! え、どういう意味ですか? 同じパーティーメンバーじゃないですか!」
まあ、それはそうなんだけど。
「俺はほら、荷車牽いてるだけだし。あんまり役にたってないと言うか……」
「それ言ったら私なんか今回誰も怪我してないから出番ゼロですよ! いやまあ怪我なくて良かったですけどね、安全第一! ヨシ!」
そうは言っても、レラは教会から派遣された治癒術師。それも他とは一線を画す凄腕。何かあればパーティーを窮地から救うことが出来る力を持っている。
シィラは自称する通りの天才魔術師。あらゆる魔術を使いこなす50年に一人の逸材。
ウォンは希少アビリティ『絶影』を持つ双刀使い。その一歩は目で追えない程に疾い。
コクロはアビリティ4つを持つ、勇者。
それに比べて俺は。
「荷車牽くのもパーティーの役割の一つじゃないですか」
「そうよ~。シィラさんもレラちゃんもコクロちゃんも乗せて引っ張ってくれてるんだもの~」
「いや降りろやフツウに」
ウォンが荷車を蹴る。気遣いありがたいがその衝撃は牽いてる俺にもくるんだが。
「人には役割がある。それぞれがそれぞれのそれぞれを全うする。それでいい。それに……いや、なんでもない」
荷車に寝そべりながらコクロが言う。
まあ……ねぇ……と、曖昧な返事を返しておく。
パーティー楽しみ~! というレラの声が空に吸われる。
紺に染まり始めた視界の奥に、見慣れた街が映った。