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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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「ナーサ、そろそろ今日の夕食の準備をしましょう」

「はい、…キャ、キャ、キャロル!」

「ナーサ!」


道場破りの『頼もう』よろしく、ナーサがまるで手合わせでも申し込むかのようにキャロルと呼びかけてきた。恐らくハーヴァンがキャロルと呼び捨てするのに触発されたのだろうが、薫にとって待ちに待った瞬間だった。


前世の会社で若い子達が名前や苗字で呼び合うのに対し、薫はいつも『大神さん』。陰では『さん』は付けられることなく、オリハルコンのお局もしくはもう一つの非常にムカつく呼び名だったが。そしてやって来たこの世界は何となくヨーロッパのような場所。だから親しい人には名前だけで呼んでもらいたいと思っていたのだが、身分が故にそれも敵わず。

それがようやく、固さは残るもののナーサがキャロルと呼んでくれたのだ。薫は思わず感極まり、ナーサに抱きついてしまった。

それを横目で見ていたハーヴァンの『わたしはもう何度もキャロルと呼んでいるのに何で抱き締めてくれないのですか』は聞き流しながら。


「どうしよう、今日の夕食はナーサの好きなものばかり作っちゃおうかしら」

「わたしの好きなものですね。じゃあ、ジャガイモとサラミのグラタン卵乗せがいいです」


畜産研究所、世話人、薫達と、このファルコールの館はなかなかの大所帯なので大皿に材料を入れて、あとは焼き上げる一品は実は有り難い。しかも、ポテトグラタンはボリュームがあるので満足感が得られる優れものでもある。卵は半熟くらいになるよう、上にチーズを乗せて調節するのがポイント。本当は、その上に食べる時に醤油を垂らすと更に美味しいのだが…

やっぱり、醤油はあった方がここでの食生活が豊かになる。その為には、本格的に大豆作りを考えなくてはいけないと薫は思った。ナーサが好きだという料理を更に美味しくして食べさせてあげたいと。


「キャロル、じゃあわたしは貯蔵庫からジャガイモを持ってきます。他に必要な物があれば何でも言って下さい」

「ありがとう、ハーヴァン。じゃあ、ジャガイモはこの籠いっぱいに。それとニンジンと玉ねぎを三つずつ。でも、腕は大丈夫?」

「それくらいは大丈夫」

「そう、良かった。あと、今日はベーコンステーキも焼こうかしら。隣で良い燻製具合のベーコン作りに成功したんですって。今までのも美味しかったけど、今回のものは傑作だそうよ」

「それじゃあ、またあれが食べたいです。キャロルがカルボナーラって言っていたやつが」

「いいわね。明日作るわ」

「明日もまたわたしが好きなものを作ってくれるのですね!」

実はカルボナーラにも少し醤油を垂らすと美味しいのだが、と薫は思った。それに、醤油があればベーコンとキノコの醤油パスタも作れる。しかもここのキノコはポルチーニ茸。


薫が目指しているのはバーデンバーデン。でも、薫の知るドイツ料理はウインナーとザワークラウトくらい。沢山のゲストに何度も足を運んでもらうにはここでしか食べられない美味しい料理で胃袋を掴まなくては。その為には、どこの国かの料理には拘りを持たず柔軟に考えなくては。それに、いくらバーデンバーデンを目指してもここはファルコール。最終的にはファルコール料理として認識されればいいのだから。


しかしどうして明日カルボナーラということが、あんなにもナーサをハーヴァンに対しどや顔にしているのかと薫は思ったのだった。

脱字報告ありがとうございました。何故、あの文字を脱字出来るのか自分でも不思議でなりません。

が、人生にdeleteしたいことだらけで、つい叩いてしまうのかもしれません、DELキーを。

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