ファルコール手前の町2
酒を浴びる程飲んで、全てを忘れてファルコールへ向かう。川や海の水ではなく、酒で禊をするかのように。なんてことはなく、デズモンドとリアムは地元のエールの味とその場の雰囲気を楽しんでいた。
リアムの視界に入るデズモンド。若い頃は何もしなくても、まるで甘い蜜の花が虫を引き寄せるように女を引き寄せたデズモンドをリアムは羨ましく思わずにはいられなかった。楽しく生きるには最高のカードを持って生まれた男だと。
ところがデズモンドを知れば知る程、その美貌こそがデズモンドの評価への障壁になっていることにリアムは気付いた。
『デズモンドはその美貌を利用して生きていけばいい』
『いいよな、デズモンドが頼めば大概の女は頷く』
デズモンドは彫像ではない。そこに飾っておけば、誰もが美しさに心が洗われるような血が通わない石膏ではないというのに。
しかしデズモンドは無用な衝突を避ける術を良く知っていた。何も言い返さず、柔らかい笑みを浮かべるという。
いずれ子爵となる兄の汚点になってはいけないと心得ていたのだ。
だからデズモンドは数多の恋の対象になったが、悪さはしていない。恋と言っても相手が熱を上げるだけ。何故ならデズモンドに近付くのは侯爵家や伯爵家の身分あるご令嬢。子爵家次男の美しいデズモンドを愛玩動物のように連れて歩きたい令嬢ばかりだった。
デズモンドは顔だけの馬鹿ではない。飼い主に噛みつけば、その家からどのような報いを受けるか良く理解していた。寧ろ悪さをしてしまったのは、真面目と評されるデズモンドの兄、ルパートだ。
家門の長であるキャリントン侯爵家の不評を買うとは。
多くの人間がお気楽に生きろと冗談交じりに唆したというのに、いつかはキャリントン侯爵領の片隅で仕事をして生きていければ良いと言っていたデズモンド。あれは冗談に冗談で返したのではない、本音だったんだろう。
目の前でシャツのボタンを胸元まで外し、無駄に色気を振り撒くデズモンド。酒場の給仕係の女性までをも魅了しているというのに、本人は今ようやくのんびり暮らせる場所へ向かえるとでも思っているようだ。
「良かったな。王都で繋がりのある女性を一斉に切れて」
「そうだな。後三年もしたら、誰かに切りつけられていたかもしれない」
「そんなことはないだろう、どのご令嬢も未亡人も皆良い夢が見られたはずだ」
「おまえもな、リアム」
「俺はもっぱら侍女対応をしていただけだ」
「言ってろ」
実際にデズモンドがその顔を活かし浮名を流し始めたのは、子爵になってから。リアムも侍女に目をつぶらせる為に色々楽しんだことは否定しないが。
「明日はヒラヒラシャボで王都のエレガントさを演出するか、スタンドカラーにクラバットで貴公子風を装うか、それとも気楽な服装で親近感を出すか。どれにするかなぁ」
「デズモンド様、ご用意出来るのは一番目のオプションだけです」
「分かっている、リアム。それが俺の戦闘服だからな。しかし、私兵の宿舎へ行くのにヒラヒラってのもなぁ」
「顔が良いだけで上手いことのし上がった頭が軽そうな男に見える方が後々便利だって」
「それもそうだ」
リアムはデズモンドがそこら辺の舞台俳優より長けていることを良く知っている。服装、香水、チーフ、身に着けるもの一つをとっても小道具にしてしまう程。
子爵家の次男という役、子爵家当主という役、夜は夫人たちと楽しいおしゃべりに興じる役と何でもこなすと。
だからだろうか、今後、王妃という役になるべく育てられた令嬢とどのような舞台を展開するのか気になってしまうのは。




