王宮では14
「難しい顔をしているが、書類に何かあったか?」
「いや、何でもない。今の俺の顔は、これが普通だ」
テレンスの質問に正直に過去に囚われていたとは言えず、アルフレッドが適当に返した時だった、執務室がノックされ父である国王の時間が今ならば取れると告げられた。
「テレンス、もう遅いからおまえも区切りをつけて帰るようにしてくれ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
父の執務室へ向かうと、軽食が準備されていた。こうすれば、食事を取る時間を含めアルフレッドへ割くことが出来るという配慮だろう。更には話しやすいよう、人払いまでしてくれたのだから。
「ジョイスは何か得られたのか?」
「次なる謎かけを持ち帰りました」
「そうか、おまえ達は随分とパートリッジ公爵に遊ばせてもらっているのだな。で、解けたのか?」
「何通りか解いてみましたが、どれも楽しい結果へは繋がりません」
「だろうな。原因が楽しくないのだ、派生することが楽しいはずがない。あの小娘がいたのなら、ちょっとした余興でもして多少は楽しんでもらえたかも知れんが。まあ、未来永劫還俗が適わないという条件をつけ早々に修道院へ送られたことは小娘には僥倖だっただろう」
修道院へ送られることが僥倖。もしもこの王都にまだ居たのなら余興。父は暗に、シシリアが王都にいたのなら隣国への詫びがてら罪人としてなんらかの見せしめをしていたと言いたいのだろう。子爵令嬢のシシリアではたいして喜んではもらえないと前置きした上で。
アルフレッドがシシリアを修道院へ送ったのは、情けないがそれしか方法が無かったからだ。
スカーレットが立場を失うことを願う他家の令嬢達、シシリアを優遇することでその先にいるアルフレッドに自分を売り込もうとする大人達。様々な思惑に呑み込まれてしまったシシリア。そのまま子爵令嬢として王都にいたなら、いずれシシリアを担ぎ上げる輩が現れたかもしれない。還俗が出来ないことを条件に盛り込んだのもそれを防止するのが目的だ。
想定外だったのはカトエーリテ子爵がアルフレッドの予定よりも早く爵位を返上し、王都からその姿を消したこと。シシリアはただのシシリアになってから、修道院へ入ったのだ。多少は持参金を持たされただろうが、院内では比較的軽い仕事が割り当てられる貴族令嬢として扱われることはない。
そして王族のアルフレッドが平民のシシリアの為に修道院へ便宜を図っては、それこそ不要な憶測を呼ぶ。そんな状況だというのに、シシリアにはその方がマシだったとは。
全てはアルフレッドが私情を優先してしまったから…。心は様々なことを叫んでいる、しかしそれを表情に出すことなくアルフレッドはパートリッジ公爵からの謎かけの解答を父に伝えた。
「承知した。では、ジョイスを再び隣国へ送るがいい。ところでアルフレッド、一つ命がある。あまり交流のない国なのだが、そこの末姫の婿を選べ。そこに置いてある紙に詳しいことが書いてある。政略結婚を蹴ったおまえが、政略結婚を整えるのだ。おまえだからこそ、政略結婚の重要性を説くことが出来るだろうて」
「畏まりました」
父は試しているのだろう。アルフレッドがどういう政略結婚を仕立て上げるのか。




