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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王宮では13

ジョイスとテレンスのそれぞれの視点からの意見。そして日々纏め上げられていく外交や財務担当文官達からの現状報告。更には、王都内に潜む諜報部員達からの信憑性が高い噂話から、誰かの意図を強く感じる作り話。

それらに目を通しながら、アルフレッドはもう一人、自分が関わったことで不幸にしてしまった女性を思い浮かべていた。

屈託の無い笑顔を見せていたシシリアがこれらの書類を見たらどういう表情を浮かべただろうかと。


正解は、無表情。アルフレッド、そして隣に並び立つ女性は文面から様々なことを読み取り、考えられる可能性全てを一つずつ背後にある関係性と結びつけながら頭の中に整理していかなければならない。いつでも、それを情報として引き出せるよう。

シシリアにそれが出来たかは怪しい。不意に口をついて何かを漏らしてしまった可能性もある。


『わたくし達の婚姻は国で決められたこと。個人の気持ちを優先させることは出来ません。ですが、カトエーリテ子爵令嬢をお傍に置きたいならば、婚姻とは別の方法を取ることをお考え下さい』

スカーレットの言葉が頭を過る。あの時、アルフレッドはスカーレットが王妃という立場に執着する浅ましい女に思え、感情を隠すことなく冷たい言葉を返した記憶がある。


けれど、今という現状の中にあり、冷静に物事を考えられるアルフレッドなら分かる、スカーレットの言葉は全て正しかったと。アルフレッドとスカーレットの婚約は国で決められたこと。頭では分かりきっていたのに、それを言葉にされ冷静さを欠いてしまったのだ。そしてこの考えも良くない。これではスカーレットの言葉のせいでアルフレッドが冷静さを欠いたと責任転嫁するようなものだ。


そしてスカーレットには不可能だと言われた、個人の感情を優先させるという愚行。それは山を登ることに例えられるのかもしれない。

アルフレッドは山頂に辿り着くことだけに集中し、そのこと以外には目もくれず登っていったのだ。頂きを目指せば、全てが思い通りになるという錯覚に陥りながら。そして山頂に到着したときには、何とも言えない高揚感に包まれた。見える景色は美しく、満足感が溢れた素晴らしい場所だった。


しかし、登りきったら今度は下るだけ。目指していた山頂という個人の感情から下らなくてはならない。本当は分かっていた、見ないようにしているだけで常に王族として国の為に行動しなければいけないことは。登る時には貸して貰えていた手は、下る時には転がり落とすかのように背を押し続けた。痛いほど。


でも、あの言葉を紡いだスカーレットの心はもっと痛かっただろう。スカーレットに人としての感情がないなんてことがあるはずがないとアルフレッドこそ知っていたのに。

『わたしがいつだってアルフの一番の味方になるわ』と子供の頃に微笑んでくれたスカーレット。

そうだ、だからスカーレットはシシリアを婚姻以外の方法で傍に置けとアドバイスしたのだ。王妃としての全ての柵を自分が引き受けることで、アルフレッドの好きなシシリアがシシリアのままでいられるよう。


書類に記される内容、どれもシシリアが無表情で読み解くのは難しかっただろう。ましてや、これを適切な場面で政治に利用するのは。

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