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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都リプセット公爵家2

刻印づけ。

そしてこれがジョイスの恐れていること。卵から出てきたヒヨコ、スカーレットがどんな行動を見せるのか。


婚約者はいたが、スカーレットが恋愛をしてきたかは分からない。仮にアルフレッドに恋愛感情を持っていたとしても、それはそうなるべく整えられた環境の中で生まれたもの。子供の頃から共に居すぎて、恋情というよりは親愛に傾いていた可能性だってある。


その良い例がアルフレッド。シシリアに恋をして、簡単にスカーレットを切り捨てようとした。スカーレットに恋情を持っていれば、シシリアへ傾くことはなかっただろう。そしてファルコールで見たスカーレット。表向きや噂では心の病になっているが、あの姿を見たジョイスにはそれがただの根無し言に思える。恋で傷付いた人間にはとても見えなかった。もしかしたら、それを隠す為に強くあろうとしている可能性を捨てきることは出来ないが。だとしても、燃え上がるような恋が潰えたからというよりは、長い月日を捧げた何かが消えた程度と捉える方がしっくりくる。


勿論、いずれ国母になる女性として教育を受けてきたスカーレットだ、大切な仕事の一環として子を儲ける方法は知っているだろう。恋を良く知らなくても、男女のことは知っている。但し、教育係の教えた範囲内で。

貴族令嬢らしく、決められた相手と結婚し子を儲ける。それも早くから王子と結婚すると決められていたスカーレットに恋という要素は無縁だったとも考えられる。


兎に角、スカーレットに恋愛経験値が豊富にあるなんてことはない。知るべきことは知っていたとしても。

そこへ男女の色艶事に百戦錬磨の猛者の登場。そして、卵の殻を外から突いて、中にいるスカーレットを外に出したら。

ジョイスには悪い予感しかない。貴族学院での辛い日々。婚約者からは冷たい態度を取られるどころか、新たに恋した相手との仲を見せつけられる始末。

そこへ、大人の男性が優しく恋をしようと手を差し伸べ包み込む…。突き放され続けたスカーレットは、その手をずっと握り続けたいと願いはしないだろうか。


ふと、ジョイスの脳裏にファルコールでのスカーレットとの別れが思い出された。ジョイスが手を離した時に、握り返したスカーレット。あの行動が誰かを求めているものだったら…。デズモンド・マーカムの登場は最悪だ。


そして更に最悪なことがある。任務の一環としてスカーレットの気を惹こうとしたデズモンド・マーカムが、狩人罠にかかるになってしまったら。

ジョイスの初恋はスカーレット。しかしあの頃のジョイスは直ぐに恋心を封印した。両親に諭されたのだ、スカーレットはアルフレッドのお嫁さんになるからダメだと。

絶対に好きになってはいけない相手。いつの間にか嫌いにならなくてはいけない相手と置き換えられていたスカーレット。しかし、ファルコールでの数日で簡単にその封印は解けた。そんなものは、本人を目の前にし、昔のような様々な表情を見てしまえば一溜りもない。悪いことにジョイスは、昔のような笑みをスカーレットから引き出したいとまで思ってしまっている、それも自分の手で。


たった三日でこれなのに、これから理由を付けてはスカーレットと接触しようとするデズモンド・マーカムが美しいだけでなく、人として魅力あるスカーレットに惹かれるのは時間の問題の気がする。


「なあ、俺はどんな手紙を書けばいいんだ?」

「ブルルル」

「そうだな、ただのジョイとして裏も表もなく本音を書くしかないか…」

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