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鐙につま先を掛け、鞍からの長さ、手綱の具合を確かめると、ジョイスは振り向くことなく馬を走らせた。
何度も別れを告げたスカーレット、それも恐ろしく美しい笑みで。そこから導かれることは、二度と会いたくないという拒絶。だから、選ばれた馬はスカーレットとの物理的距離を早々に広げることが出来る駿馬であるとジョイスには分かる。そして少し走らせただけで、ジョイスの推測は事実に変わっていった。
しかし駿馬を宛がってくれたのには他の理由も考えられる。
国のことを思い、あの針の筵のような貴族学園でも己の矜持を守り続けたスカーレット。そんな彼女ならばジョイスが受けたアルフレッドからの命を少しでも早く遂行させるよう手を貸してくれたとも考えられる。二度目の訪問で聞くことが出来たパートリッジ公爵からの言葉。それを逸早くアルフレッドに伝えろと。
『貴殿らは、我々がそちらへ向かうことを由としないと考えているとは気付かなかった。姪の華燭の典を無くしたというのは、そういうことだと理解したが』
ジョイスはパートリッジ公爵に突き付けられた言葉を噛み締めながら、手綱をしぼり更なるスピードを馬に促した。
この国にとって隣国は大切な貿易相手。地形上、双方の過不足を補い合うことで上手くいっている。
例えば塩や砂糖の多くは隣国からの輸入に頼っているのが現状だ。
パートリッジ公爵は『人』の行き来に言及したが、何もそれだけではない。『人』、即ち隣国の商人がやって来なくなったら一番先に塩と砂糖が止まる。自国の生産量では、この二つの価格は跳ね上がり市場に混乱をきたすだろう。最初はこの二つの価格上昇が起こり、次第に様々なものに連鎖していく。民の生活は困窮し、不満が蔓延していく未来が簡単に想像できてしまう。勿論、他国からの輸入も検討するが足元を見られるのは必須。第一、他国から輸入出来たとしても量も時期も全く読めない。
人は今まであったものがある日急に無くなるとはなかなか考えられない。生活に根付いた塩や砂糖が、まさか宝石の様に高騰するとは思いもしないだろう。国政はそのような混乱が起きないよう、常に先を読み動いていくもの。
ナーサが言ったように、まだ誰も気付いていないのなら予想されるワーストシナリオが事実にならないよう尽力するのみ。
そしてジョイスはまた愚かな過去を思い出さずにはいられなかった。あんなに排除しようとしても、いなくならなかったスカーレット。それが、ある日急に王都から消えた。塩や砂糖に擬えるのはスカーレットに対し失礼かもしれないが、ジョイスにとっては正しくその塩や砂糖だった。
最初は気付きもしなかったくせに、失った途端理解してしまったのだから。重要性に。
あの五日間の会議以降、ジョイスにとって食事は生きる為に口にするものに変わった。何を食べてもそれが『食べ物』だから口に入るとしか思えなくなったのだ。それが、スカーレットが出してくれた食事や菓子は違っていた。旨いと感じ、何よりそれをスカーレットが作ってくれたことに嬉しくて仕方なかったのだ。
過去の行いから、ジョイスにだけ別の食事を提供することなく周囲のスカーレットにとって大切な人達と同じものを振舞ってくれた。
ジョイスはあの時確かに感じた、一流のシェフが作るよりもスカーレットの料理は何倍も旨いと。
一時間くらいで書き上げたので、誤字脱字、変な箇所か多かったらごめんなさい。昨日中に頭の中では出来上がっていたのですが…、寝てしまいました。




