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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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*王都キャリントン侯爵家7ですが、文章が抜けていることに気付き訂正いたしました。なんだか変な始まりだったと思います、申し訳ございません。

ジョイスが王都へ向かう日の朝食はタマネギとマッシュルームを良く炒めたものをふかしたジャガイモに加え、マヨネーズで和えたポテトサラダとホウレンソウ入りオムレツ。それにいつもの野菜スープと数種類のパンを用意した。

三倍の宿泊料を吹っ掛けた薫としてはこれくらいはと思ったのだが、ナーサに言わせるとこれは優し過ぎらしい。

「知りませんよ、ジョイさんの胃袋を掴んでしまっても」

「大丈夫よ、本来ここは紹介が無ければ宿泊出来ないのだから」

「それはそうですけど、既にキャロルさんはルールを破っていますからね」

「…ごめんなさい」


そんな会話を薫がナーサとしていると、ハーヴァンが現れた。

「おはようございます。わたしに何か出来ることはありませんか?」

「あら、ハーヴァンさん、おはようございます。ありがたい申し出だけれど、無理はしないで。あなたに今必要なのは体調管理なのだから」

「はい、ここの食事が美味しいお陰で体調が随分戻りました、それでお手伝いが出来ればと」

「利き手が辛いのだから、いいわよ。あ、でも、カトラリーならば並べられるわね。お願いしてもいい?」

「はい」

薫を見るナーサの目は物語っていた『それ見たことか、早速ハーヴァンの胃袋が掴まれている』と。



六人で囲む朝食。昨日の朝食と明らかにジョイスの表情は違っていた。正面に座っていない薫にも分かるくらい晴れやかだったのだ。ハーヴァンの主として胸のつかえがとれたといったところだろう。しかし、胸をなでおろすにはまだ不十分。ジョイスはこれから乗り慣れない馬で王都へ向かわなくてはならない、それも一人で。今まではハーヴァンが行っていた従者の役割も行いながら。


「ジョイさん、朝食の後はケビンかノーマンにどこの町の宿で泊まるのがいいか教えてもらうといいわ」

「ありがとう、キャロル。助かるよ」

「家の名前を出して泊まれないだろうから、ランチボックスと一緒に細かい現金も用意しておくわね」

「何から何まで済まない」

「遠慮しないで、それはハーヴァンさんが労働で補うことになっているから。ハーヴァンさんはそれに加えて、乗り合い馬車と宿代まで働かないと。それとも馬一頭代になるまで働く?」

「キャロル、それなら俺が次に来る時に」

「ふふ、ジョイさんがここに来ることはもうない。今回は特別。それを覚えておいて」

「…ああ」


初恋相手のスカーレットに拒絶されたからだろうか、ジョイスは悲しそうな目をした。でも、前世で都合の良い女だった薫は知っている。そういう表情に一度情を掛けると、付け込まれると。場合によっては付け込まれるどころではなく、騙され始める切っ掛けになってしまうことがあることも。


それに今更そんな表情をされても困る。今この現状を招いたのは、仮令創造主が描いた世界だとはいえ、ジョイス自身だ。スカーレットが国の未来を考え持ち続けた強い心のように、ジョイスも幾ばくかの芯となる核を持っていたならば多少は違う未来を歩んでいた可能性がある。その核の中に、幼なじみで初恋相手のスカーレットへの気持ちが少しでもあったなら。


ここへやって来てからジョイスが見せていたハーヴァンへ心を砕く姿。それはジョイスの本質は優しいと示すようだった。でも、薫が知る貴族学院でのジョイスの姿は、散々スカーレットの心を打ち砕いたものばかり。中性的で美しい顔のジョイスが、無表情できつい言葉を放てば与える印象は冷酷や恐怖。優しさの欠片もなかった。


だというのに、スカーレットは薫がジョイスを助けたことに礼を言った。どれだけ出来た十八歳なのだろうか。けれど、薫はそこまでスカーレットの美しい心を見習うことは出来ない。だからつい言ってしまった、表情だけでなくジョイスの心まで曇らせるような言葉を。曇った心にいずれここへやって来た日のような嵐が起き、二度とスカーレットの顔など見たくないと思えばいいと。


「ジョイさん、王都までの道のりは乗り慣れない馬でも安心です。キャストール侯爵家が整備してくれた上に、治安も守られていますから。余程個人的にキャストール侯爵から恨みを買っていない限りは」

「そうだろうね。非常に良い街道でいつも感謝して利用させてもらっている。本当はこの街道整備計画が国全土に広がるはずだったのに、愚かな者達がそれを台無しにした。知らない内にその恩恵を取り上げられた街道整備が遅れる地域の民達へ、愚かな者達は何と言って詫びればいいのか」


薫の嫌味に対し、ジョイスは後悔を滲ませた。スカーレットへ婚約破棄を突き付けたのはアルフレッド。しかもその場にジョイスは居なかったが、そうなることを止めなかった責任があると感じているのだろう。だから愚かな者達という表現を使ったということだ。


ことはアルフレッドとシシリアの恋愛劇では済まされなかった。多くの不利益をもたらし、ジョイスが言うところの愚かな者達が今それをどうにかしようとしている。

美しい顔のジョイスが浮かべる憂いは、薫に嫌味を言ったことが取り消せたらと思わせるには十分だった。

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