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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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その夜、久しぶりにイービルとスカーレットが薫の元に現れた。理由は明白。スカーレットが薫に礼を言う為だった。


「薫さん、ありがとう。ジョイス様を助けてくれて」

「ふん、余計なことを」

「イービル様、薫さんは良いことをしたのですよ!」

「しかし…、あんなヤツ」


ところが二人の様子は昼間に薫が思い浮かべたいつも仲良く寄り添うものではない。イービルが臍を曲げ、スカーレットがやんわりと窘めるよう。


『あんなヤツ』という発言から分かるように、イービルもナーサ同様ジョイスを許せないのだろう。それはそうだ。今やイービルにとってスカーレットは最愛の存在。そしてジョイスは過去においてそのスカーレットを散々貶めたのだ。


「でも、ハーヴァンさんは本当に拙い状況だったのよ。放っておいて万が一にも死体になったら面倒だったもの。わたしは人として当然のことをしただけ。第一、イービルだって結局のところ助けてくれたじゃない。菌から一足飛びに薬にしてくれたじゃない」

「それは…」


イービルの表情は不本意だが仕方が無かったと言っているようだった。もしかしたらスカーレットがいつものように力添えしてくれたのだろうか。


「薫さん、イービル様も何かをしてくれていたの?」

「ええ、わたしの願いを叶えてハーヴァンさんの薬を菌製造機から出したわ」

「まあ、イービル様!あなたはやはり優しいお方なのですね」

「俺はあいつらが早々にここから出て行くようにしたまでだ」

「それでも、ありがとうございます」


表情通りイービルには不本意だったようだ、抗生物質を出したのは。

「まあ、あいつは明日しっかり追い出せよ」

「分かっているわ。わたしだって面倒なのは嫌だもの。でも、あの従者のハーヴァンさんは今後の為にも少しの間残ってもらう。教えてもらいたいこともあるし」

「あいつなら、残ってもいいだろう」

「イービル様ったら」


イービルは愛する人至上主義なのだと薫が思った時だった、イービルがジョイスの過去をさらっと話したのは。

「あいつの初恋の相手がスカーレットというのが気に喰わない」

まるで欠席裁判。ジョイスの幼い頃の甘酸っぱい話が堂々となされた。


「わたくしもイービル様から伺うまで知らなかったのですが、どうやらそうらしいの。それが、イービル様には気に入らないらしくて」


気に入らないも何も、子供の頃の話。しかもスカーレットが気付いていなかったということは、ジョイスがそれらしい気持ちを打ち明けたことすらなかったということだ。それに子供の頃の交友関係など高が知れている。傍にいたから好きになった程度かもしれない。


「イービルも案外子供っぽいのね。誰が先にスカーレットさんを好きになろうと、肝心なスカーレットさんが好きなのはあなたなんだから良いじゃない」

「…それはそうだが」

薫の言葉にスカーレットは頬を染めながらも大きく頷いた。イービルに至っては、肯定の言葉を付け足す始末。今回はどうでもいい焼き餅をイービルが焼いたに過ぎないということだ。

現れた時には寄り添っていなかった二人だが、今やいつも以上にべったりしている。そして二人で囁き合い始めた。


「あの男はスカーレットに貴族学院であんな酷い態度や言葉で接したというのに、性懲りもなく、また…」

「イービル様、その先は駄目ですわよ。薫さんの未来は薫さんが決めるのだから」


「なあに?わたしの名前が出たみたいだけれど」

「薫さんの未来が楽しみって話をしていたの」

「ありがとう。実はわたしも楽しみだわ。だって沢山の楽しいことが待っている気がするのだもの。あっ、そうだ、イービル、三つ目のお願いをしたかったのよ」

「なんだ?」

「菌製造機の種バージョンが欲しいの。願った種が出て来る箱が。これもいずれはファルコールの為になるわ。最初は配るだけになってしまうかもしれない。でも、その内品種改良をしてみようと思う人や、効率的に作付けをしようとする人が現れるでしょ。何より、皆の食が豊かになるわ」

「まあ、素敵。薫さんは作物そのものを出してもらって、それを皆に渡そうとしないところがいいわ。皆の生活を長い目で見てくれてありがとう」


今回もスカーレットは薫の希望が叶うようしっかり後押しをしてくれたのだった。そして、薫はイービルに先に礼を言った。

「明日、ジョイスを見送る時は満面の笑みを見せてお別れの挨拶を言うわ。どう、イービル?」

「いや、それは、あまり効果的ではないというか…」

「だって初恋の相手から笑顔でもう二度と会うことはないだろう、って言われるのよ。なかなかじゃない?」

「さあ、俺にはそれであいつがどういう反応をするかまでは分からない」

「それもそうね」


ジョイスの反応以上に、二人が二度と会わないかどうかも分からないだろうとイービルは呟いたのだった。

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