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父との話し合いの後、四日間はのんびりしたものだった。忙しさで常に邸を不在にしていた父も極力外出を控え、スカーレットとの時間を楽しむようにしてくれた。サロンでのお茶、図書室での読書会と。

けれどもダニエルとは数度顔を合わせただけだった。

(嫌われているのはしょうがない。でも、現実は見てもらわないと)


創造主が用いた小説のせいなのだろう、ダニエルはシシリアという存在に陶酔していた。薫の冷静な目で見ても、確かに笑顔や仕草は愛らしい。聞こえてきた声は小鳥のようだ。

でも、だからと言って何も真実を確認せずに妄信するのはどうかと思う。お陰でスカーレットはダニエルの中で王子とシシリアの仲を悪魔のように邪魔する悪者にされたのだから。


そして迎えたスカーレットがファルコールへ向かう前日。ダニエルも思うところがあったのか最後の晩餐は同席したのだった。ずっと父の言葉に背くことは出来ないと観念したのが理由かもしれないが。


「姉上、明日はお気を付けて。わたしは見送りが出来ませんので」

出来ないではなくしたくない、それが本音なことは言わずもがな。薫も父も気付きながらも表情はそのまま心の中では顔を顰める。父としては侯爵家を継ぐ人間が心のうちを簡単に見破られたことに注意を言いたいに違いない。しかし、スカーレットが出発前の家族揃っての大切な食事。何も言うまいと、見て見ぬ振りをしたのが感じ取れた。

が、薫は違う。ダニエルは後継だ。父をしっかり支えてもらわなくては困る。スカーレットの父と侯爵家を守る為に。


「ありがとうダニエル。明日会えないのは残念だわ。でも、あなたも侯爵家を継ぐ為に忙しいものね」と前置きをしてから薫は今までのダニエルの立ち位置を説明した。


姉が王家に嫁ぐ以上、ダニエルまで王家に近づき過ぎるのを良しとしない他貴族の目を躱す為父が表立った役割を与えてこなかったことを。

「でもね、これからは違うわ。わたしはもう王都に戻らない可能性が高いから、あなたがこの侯爵家の役割を全て果たさないとね」

果たすというよりは背負うが正しい。嫌悪を滲ませる目でしか最近は見られなかったとしても、スカーレットの大切な弟。言葉を選び上手く誘導しなくては。


「シシリア・カトエーリテ子爵令嬢もこれからは王宮へ出向くことが増えるわ。だから、彼女を守る為にもあなたは多くの情報を得なさい。貴族年鑑は勿論のこと、横と縦の繋がり、どうしてそうなっていったのかを調べるといいわ。領地の特産物の金額も押さえておくと、不思議というか不都合な点も見えて面白いわよ」


薫がスカーレットから与えられた今までの情報には驚くものが多々あった。敢えて全てを教えずに、ヒントだけを与える。何でもかんでもお膳立てしてはいけない。元の世界の会社では、二代目がお膳立てし過ぎたから、三代目があんなだったことは明らかだ。四代目は更に楽を追求していたけれど…今後どうなることやら。まあ、もう関係ないのだから気を揉む必要もないけれど。


ふと思う、薫はこれからスカーレットの希望を叶える目標に向かって進んで行く。でも、それだけ。自分自身この世界でどうしていきたいのだろうか。

ぶっちゃけこんな美少女に生まれ変わった。財力も政治力もある家。引っ込む為に選んだ場所もスカーレットの記憶の中から薫にとって一番良さそうなところをしっかり選んだ。

じゃあ、次は?


―あなたもこの世界を楽しんで―

不意に鈴を転がすような声が薫の頭に響いた。お互いに今までできなかった恋をして欲しいとまで言っている。

恋?

悪くない、前世でも結局まともにそんな感情に向き合ったことは無かった。チャンスがあったら落ちてみたいものだ、恋に。


「どうした、スカーレット?何か面白いことでも思い出したのか」

「いいえお父様、ファルコールで何がわたしを待っているか想像していたら楽しくなってしまって」

「そうか、わたしは寂しいがな」

そう言いつつも父が向ける眼差しは優しさが籠っている。

「楽しいことを沢山手紙に綴ります」

「ああ、待っているよ」


薫はこの父の優しい表情がスカーレットをぎりぎりまで支えてくれたのだと理解した。辛い時にたった一人、それもこんなに素晴らしい人が味方だったのはせめてもの救いだっただろう。

そしてこれからはこの父にスカーレットが楽しく暮らせていると報告しなくては。


本当のスカーレットはイービルと新たな生活をスタートさせているが、それを伝えることは流石にできない。父にはこの世にいる薫の魂が入ったスカーレットが生まれた時から大切に育て続けたスカーレットなのだから。


「お父様、今までありがとうございました」

「離れても、スカーレットが困ることがあれば直ぐに助けるから安心しなさい」

「はい」

ここはきっと満面の笑みで甘えた方がいいところだろうと思い、薫は返事をした。そして、優しい父に少しでも多くの楽しい知らせを届けようと誓ったのだった。

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