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なんと親切な申し出だろう。ジャスティンが本当にオランデール伯爵の言う凄腕を持つ人物ならば。
「あなたは伯爵に何と言うの?観させてもらえないのだもの、事前に教えてちょうだい」
「僕は常に伯爵へ事実を明かす機会を与えるつもりだ。その上で今後を考えてもらいたいというのが本音だからね。否、そうしなければ伯爵が今抱えている問題は解決するどころかどんどん大きくなってしまう。そうだね、『伯爵が常々評価する力を持つジャスティン殿ならば気持ちと体調が回復すれば直ぐに新たな事業を興すだろう』って言ってみよう」
「あら、それでは一生買い戻せないと思うわ。伯爵は真実を話さない、いいえ、もう話せない状況なのではないかしら?」
夫人の含みある物言いに、笑み。その表情は公爵の背筋をゾクゾクさせるものだった。今回の一件で、伯爵が唯一公爵の望むものを差し出せたとするならこれだけだ。
「君は僕のこの言葉に伯爵はいくつの訂正をすべきだと?」
「さあ、だって伯爵はまだ重要な真実に辿り着いていないもの」
伯爵が言わなければならない真実は、この公爵の言葉へは最低でも三つある。一つは、ジャスティンにそんな力量はないということ。そしてその告白は、同時に伯爵家の事業を進めていたのはジャスティンではなかったと明かすことでもある。当然、今後ジャスティンが新たな事業を興すことは不可能だろう。ここまでで既に三つ。更に付け加えるならばジャスティンは体調など崩していない。そもそもジャスティンはサブリナとの離縁に心を痛めたのではなく、使い勝手がよい駒を失って落胆しただけだ。
そして夫人が言う重要な真実、何故サブリナが妊娠をしなかったのかを伯爵は気付いていないだろう。否、気付ける内容ではない。これには、その事実をジャスティンが伯爵に告白しなければならないのだから。
「伯爵がプライドを捨て、自身が知る真実を全て話してくれたのならば別の道を提示することも出来るだろうが…」
公爵も分かっている。伯爵に機会与えると言ってはみたが、その機会が利用される可能性は限りなく低いと。
「別の道よりは、伯爵が選ばざるを得ない道の整備を進めないといけないわね」
「ジョッシュには王都へ戻ったら僕から全てを話そう。ここにきて、急に今後を変えてしまうのだから」
「急ではあるけれど、ジョッシュにとって悪い話ではないはずよ。あの子の悩みの一つはこれで解消されるわ。オランデール伯爵家と違い、息子が悩みを相談してくれて良かったわ」
「ジョイスも君にスカーレットに何を贈るか相談したんだろ?」
「相談というより、意見を伝えたと言う方が正しいわね。ジョイスはあなたに変なところが似てるから」
「君たちが良く話している贈り物のセンスかい?」
「違うわ。それはリップセット公爵家の男性の宿命。ジョイスは、女性の気持ちが理解出来ないところがそっくり」
『ああ、まただ』と公爵は思った。挑発するような夫人の笑みを見ることが出来、公爵は得も言われぬ喜びを感じた。そしてもっと喜ばせなければと、思い付いた案を話し始めたのだった。




