王都キャリントン侯爵家4
悪かったことを認め謝罪の気持ちを記した手紙が相手を傷付ける。デズモンドに言われるまで想像もしなかったことにテレンスは溜息を一つ吐いた。
そしてテレンスは気付いた。今までスカーレットへ書いた手紙のような謝罪をしたことが無かったことに。何故ならテレンスにとって謝罪は決まったものだったのだ。する相手も、すべき内容も。
子供の頃は家庭教師、乳母、家令。内容はそれぞれ勉強、生活態度、使用人への接し方。
アルフレッドの側近に選ばれてからは、アルフレッドとジョイスへ対し仕事で何かあった時。
そして両親。キャリントン侯爵家の人間としての姿勢に注意を受けた時だ。
しかし、これらは謝罪というよりは気付きを受け入れ同じことを繰り返さないという宣言に近い。
そもそもテレンスはキャリントン侯爵家の人間として、しかもいずれはアルフレッドを支えるよう様々な教育を受けてきた。
敵を作ることなく貴族社会で上手く立ち回る。どんな人間でもいつか利用出来ることがあるかもしれないのだから。酷いようだが、捨て駒だとしても。
力あるキャリントン侯爵家に生まれ、アルフレッドの側近に選ばれたテレンス。同世代の貴族だったら、誰も彼もがテレンスから声を掛けられたいと願い、実際に声を掛けられればそれは光栄なことだと喜ぶ。負の感情など抱かせないテレンスが謝罪をすることなど無かったのだ。
デズモンドへの『申し訳ございません』も謝罪の言葉というよりは『迷惑を掛けるな』程度。テレンスは分かっていた、デズモンドがテレンスの言葉を否定すると。しかし、否定されると分かっていたとしても事実は事実。ここで一言デズモンドに声を掛けておけばテレンスへの印象が悪くなることはないという思惑があったのは否めない。スカーレットへの手紙を託したいという下心があったので、印象操作をしたまでだ。
しかしその下心がデズモンドからあのような言葉を引き出すとは。
あの時、テレンスは父から捨て駒としてファルコールへ送られるデズモンドがちょっとした意趣返しで手紙を渡す保証が出来ないと言ったのだと思った。小さいヤツだと。
でも、違った。
直接会話をしたこと等ないだろうスカーレットを思い遣って発言したのだ。酷だと。知りもしないスカーレットの心を案じて。
テレンスはスカーレットを知っている。否、知っていた。
どうしてどんな人間でもいつ利用出来るか分からないのだから、上手く立ち回るようにと言われていたのにスカーレットにあんな態度を取ったのだろう。
アルフレッドに切り離されたら貴族としても終わりだと見限ったからだろうか。
頭の中に不思議な靄が掛かる。
『テレンス様が守るのは殿下でしょうか、それとも殿下と殿下がいつか治める国でしょうか?』
靄の中から、学院でスカーレットに言われた言葉が蘇る。
少し前に行われた五日間の会議。アルフレッドがいつか治める国に、たった数年の学院での期間が影を落とすことになろうとは。
あの数年の中にいるときは、まるで光の中にいるように輝き楽しかったというのに。
そしてテレンスは手紙の封を破り、あれ程完璧な謝罪文だと思ったものを破り捨てた。
通勤の暇つぶしになるような時間を目指しているのですが、間に合わなかった…。ここで諦めると間が開きそうなので、短いのですが投稿しました。
ようやくお休みなので、今日はもう少し書き進められるといいのですが。




