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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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終わりを見せない夫人の話。続いたのはクリスタルに小切手帳が渡されなかったという事実に対する原因だった。これもまた、セーレライド侯爵家の訪問が大きく関わっているだろうと夫人は確信に似た推測を話し始めた。


セーレライド侯爵家からの訪問に際し、伯爵がクリスタルを一時伯爵家に戻した理由の一つは恐らくリーサルト・セーレライドとの顔合わせ。貴族学院でスカーレットに対するクリスタルの言動は当時の学生ならば皆知ること。それもあって伯爵はクリスタルに修道院での奉仕活動を命じたわけだが。しかしいくら奉仕活動をしようと、クリスタルのキャストール侯爵家の令嬢であり王子の婚約者だったスカーレットに対して働いた無礼がなくなるわけではない。だから伯爵は隣国へクリスタルの嫁ぎ先を求めたのだろう。


アルフレッドとスカーレットの婚約破棄騒動は大きな出来事なだけに、貴族達の記憶から完全に消し去られることはない。それはまた、何かの拍子にクリスタルのことが貴族達の記憶に蘇ることを意味している。伯爵は考えたはずだ、そんな貴族社会よりは隣国の方がクリスタルは心穏やかに過ごせるに違いないと。好都合なことに、クリスタルは隣国の言葉に長けているのだから。もしもリーサルト・セーレライドに見初められれば儲けもの、それが駄目だったとしても取引相手の家の娘ということでクリスタルを隣国に招いて欲しいということは出来る。理由は簡単だ、今後の取引の為の見聞を深めさせたいとでも言えばいい。隣国でのセーレライド侯爵家の力は強大。その侯爵家の客人となれば、それだけでクリスタルの価値は上る。どう考えても自国より隣国で結婚する方が良いと伯爵ならば考えたはずだ。


夫人はそこまで話すと『でもね』と区切ってから、『クリスタルが隣国の言葉に長けている』という前提が成り立っていなかったと残念そうに言い放った。そしてそれはクリスタルが悪いのではなく、娘のことを余りにも知らな過ぎた伯爵に責があると言ったのだ。しかし伯爵は知らないまま、小切手帳を渡さず修道院での滞在期間を伸ばすという罰をクリスタルに与えてしまった。反省をしていないクリスタルには罰だと分からないというのに。そして金のないクリスタルは人を使えばいいと考え、オリアナをファルコールへ遣わせたというわけだ。


反省もせず金を使うだけの修道院滞在になることを防ぐ為の伯爵の手段は、結局クリスタルには無駄だった。金が人になっただけなのだから。しかもオリアナの一件を伯爵は後日リプセット公爵から聞くことになる。それもリプセット公爵家のジョイスが目撃し、既にキャストール侯爵家に事の顛末を報告した後で。


「伯爵がオリアナさんを解雇したのは、ジャスティン様との関係を知ったから。そう考えると、クリスタル嬢がオリアナさんをサビィさんの元へ送ったことに『なんて馬鹿なことを』と思ったでしょうね。だって伯爵家を解雇されたオリアナさんが何を言うか分からないじゃない。そもそも、反省中のクリスタル嬢がキャストール侯爵領からキャストール侯爵令嬢の話し相手を連れ去ろうとすること自体問題なのだけれど。そして伯爵は旦那様の言葉から知った、クリスタル嬢の馬鹿げた策を。それと同時に理解した、その策は既に潰えていると」

「それでは夫人が言ったように、伯爵は多くの怒りを抱えていることでしょうね」

「ええ、キャロルさん。でもね、伯爵はまだ肝心なことを知らないと思うわ。サビィさんが妊娠しなかった理由をね。だって、その家には偶にジャスティン様が訪れるのでしょう。馬鹿ね、そんな詰まらない餌では絶対にサビィさんを釣れないのに」

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