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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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リプセット公爵夫妻滞在一日目は、ジョイスの思惑もあり使用人や護衛それぞれが楽しめるよう工夫されたものになった。特に護衛達は温泉施設とスコットの健康診断を大絶賛したほどだ。


「礼を言うよ、スコット医師。我がリプセット公爵家の護衛の為にありがとう」

「大切な体ですから、労わり上手く使ってもらいたいと思っているだけです。礼を言われるほどではありません」

「いや、護衛達がとても感謝していた。滞在中の効果的な入浴についても説明してくれたそうで」

「はい、不思議なことにここには異なる泉質があるので、それぞれに見られる効果をお伝え致しました。ファルコールの住人達からの声やその後のわたしの私見を纏めたデータですが、護衛の方々にお伝えした内容には概ね間違いはないと思われます」

「素晴らしい取り組みだ。住民に温泉施設を開放し、気になることがあれば医師に相談が出来るとは。そして、スコット医師はそれをデータとして集め、研究していると」

「これもキャロルのお陰です。温泉を見つけ、わたしをここに招いてくれたのですから」

「彼女はどうやって見つけたのだろうか」

「湧いていた湯を偶然見つけ、付近の石の色に付着した色から判断したようです。それに、茶色く濁る湯は地上に出る瞬間に色が変わるようで、そこから泥水ではないと判断し温泉ではないかと仮定したのだとか。いずれにせよ、泉を司る女神の祝福を与えられているのでしょう。温泉を見つけてしまうとは」

「スコット医師はなかなか洒落たことを言う」


リプセット公爵とスコットの遣り取りは薫の耳にも届いていた。だから泉を司る女神ではなく、祝福というなら悪を司るイービルからなのだけれど…と薫は思ってしまった。流石に二人の会話を訂正は出来ないが。


そしてそのイービル。実はつい最近もスカーレットと共に薫の前に現れた。どうやら薫の生活に問題がないか気に掛けてくれているようなのだ。呼び名がイービルな上に、黒ずくめ。けれどイービルは悪魔でも、悪の組織の代表でもない。ただ仕事が悪に関することというだけ。その仕事を離れれば、スカーレットへの愛情を持ち、薫への優しさのようなものも持っている。まあその優しさは、スカーレットの体を薫が受け継いだからなのかもしれないが。けれど薫としては、事情を全て知る存在と会話を出来るのは案外有り難い。しかも優しいスカーレットは薫に毎回願いはないか尋ねてくれる。こんな風に誰かが気に掛け優しさを表してくれるのは本当に嬉しいものだ。

そして前回も薫は、スカーレットの問いに何の願いも思い浮かばないと答えた。温泉に関し最初はあんなに業突く張った薫なのに、三つの願い以降不思議と何も思い浮かばないのだ。


『どうしてかしら。最初の三つは直ぐに思い浮かんだのに』

『ふふ、それはこの世界に薫さんが馴染んだのではないかしら。イービル様に出してもらったものも、あなたは本当に必要な時以外使わないわ。だって品種改良はマーカム子爵が頑張ってくれてるし、衛生面はスコルアンテ様が努力して下さっている。それにファルコールやキャストール侯爵領を良くする為には、ジョイス様と良く相談されているでしょう』

スカーレットの話を聞きながら、薫はそういうことなのかと妙に納得した。確かに、欲しいものは拙い絵と説明で周囲の人に伝え、それをみんなが叶えてくれている。この世界の中で調達を始めたようなものだ。しかもトビアスが他国、しかも海産物までこの山岳地帯のファルコールに届けてくれたことで、薫の食の世界は広がった。


温泉だって最初はかなりイービルに協力してもらったが、今はスコットが主体になり日々研究を重ねてくれている。ハーヴァンに至っては馬への応用も。


薫が数日前のことを思い出しながらそんなことを考えていると、リプセット公爵夫人が近くへやって来たのだった。


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