367
ハーヴァンは簡単にデリシアを見つけることが出来た。ジョイスの情報通りの髪色と瞳の女性が一人しかいなかったということもあるが、何より聞いていた通り気弱さが顔に表れていたからだ。仮に具体的な色等の情報が無かったとしても、その表情だけでハーヴァンはデリシアを見つけられたことだろう。
「デリシアさん?だよね。わたしはハーヴァン、そしてあなたの迎えをキャロルから言い遣った者です」
デリシアは目をぱちくりさせながらハーヴァンを見た。その様子を見ていたハーヴァンが鳩の目を思い出して笑いそうになっているとは知らず。
ジョイス、スカーレットの時も驚いたが、デリシアはハーヴァンにも驚いていたのだ。オランデール伯爵家に仕えるデリシアは、ハーヴァンがジョイスの従者であったことを知っていた。ハーヴァンは高貴な方に仕える人。それが、自分のような者を迎えに来ることなどあってはならない。確かにスカーレットは昨日迎えを寄越すと言ったが…、デリシアはそれを勝手に食品などの納入業者がついで程度にやって来るものだと思っていたのだ。
服装は王都で遠目に見る高貴な方に仕える従者とは違うが、物腰はそれそのもの。そんな人に名乗られ、手を差し出されてしまった。
兎に角質問に答えなければと、デリシアは上擦る声で名を名乗ったのだった。
「荷物はそれだけかな。かして」
「あ、いえ、自分で」
「女性に荷物を持たせて、自分だけ手ぶらでは歩けないよ」
しかも普段は水入りのバケツや掃除道具をいくつも持つことに慣れているデリシアの荷物を引き受けてくれるという。たいした量もない荷物は恥ずかしいが、それはそれで良かったとデリシアは思ったのだった。
そして馬留へ向かうまで、ハーヴァンはデリシアに尋ねておきたいことはないかと申し出てくれたのだった。
「あの、今更ですが本当に良かったのでしょうか」
「うーん、その質問には答え辛いな」
「えっと、それは」
「ああ、違う違う、デリシアさんを歓迎していないって言ってるんじゃない。良い悪いを言うだけなら簡単だけれど、デリシアさんが知りたいのはそういうことではないだろう。だから、自分で感じ取ってみるといい。キャロルという女性がどういう意図で君に滞在するよう言ったのか、君に何を望んでいるのか」
「感じ取る、ですか?」
「君もメイドとして伯爵家で働く人間だ。その家の主が何を望むか考えながら働くだろ。従者が仕える主の考えを感じ取り、先を読むように。デリシアさん、こういうのはどうかな。いつかキャロルがあの時ああ言って良かったと思えるよう、君がファルコールの館で過ごすんだ」
ハーヴァンの考えは、オランデール伯爵家のクリスタルの侍女とは違うようにデリシアは思った。デリシアが休憩室の掃除をしている時に漏れ聞こえた侍女の話は『何を言われても心を無にする』だったのだ。言われる度に何かを感じていたら、心がいくつあっても足りなくなってしまうと。
馬留までの短い距離、結局デリシアはそれ以外の質問をすることなく、ハーヴァンの言った意味を考えていた。




