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どうすべきか。困った薫は、この質問の出所であるジョイスへ視線を向けた。こういう時はスカーレットに寄り添いたいと言ってくれたジョイスを頼ればいいように思ったのだ。そうすることで、ジョイスの中で燻り続ける消すことの出来ない貴族学院での過去を多少は上書きすることが出来るだろうから。薫の前世の年齢を考えると、十代の若い男の子の心を利用するようで申し訳ないが、きっとこの選択が今の最善のはずだ。
視線を受けたジョイスはというと、薫の考えからはズレたことを思っていた。こうして二人で問題解決に当たることで、新たな関係が構築されていくのだろうと。勿論新たに構築されるのは良いものでなければならない。その為にもここでデリシアの本音を上手く拾い、それに合った解決策を提示しながら本題のサブリナとオランデール伯爵家とを切り離さなければならないと考えていた。
二人が考えていることは違うが、デリシアに関して目指すところは近しい。薫はデリシアが前へ進む為に疑問をどう扱うか悩み、ジョイスは疑問を取り除かなければデリシアが前へ進むことが出来ないと理解した。
「デリシアさんはどうして不思議に思いながらも、それを考えないようにしていたのだろうか」
「それは…」
「俺にも過去において似たようなことがあった。不思議だけれどそう思い続けなければ今がおかしなことになってしまう、だから疑問に持たないようにしたという経験が。必ずしも俺と同じだとは言えないが、もしもこの意味が分かるなら、君が言う不思議なことは不思議ではなく、今を不都合にしてしまうことなんだ」
「不都合…」
「簡単な仕事は、面倒な仕事へ。オランデール伯爵の優しさは、過去にそんなものなど見ていないのにどうして今更に。君は不思議という言葉で自分自身を誤魔化そうとしたんじゃないだろうか。不思議なことなんだから仕方がないと」
ジョイスはただ思ったことを話しただけだった。しかし、デリシアの目からは涙が落ち始めた。
こんな時でもジョイスは過去のスカーレットはあれだけきつい口調で話したにも関わらず泣くことなどなかった、何て強い女性だったのだろうとお門違いなことを思ったのだが、薫とリアムは違う。
リアムはデリシアが今まで泣くことが出来なかったのだと理解し、薫はデリシアが不思議という言葉で様々なことに蓋をし続けたのだと感じた。そして会話の中からその言葉を拾い、感情を噴出させたジョイスに流石だと思ったのだった。しかもこれなら、デリシアの疑問に答えたのはデリシア自身ということになる。
「デリシアさん、最初にキャロルが言ったけど俺達は君の言葉を言いふらしたりはしない。だから心を軽くする為に、君が不思議だと思うことで無理に納得しようとしていることを話してみたらどうだろうか。誰かに話すことで自分の考えが整理出来ずはずだ」
ジョイスの言葉に消えそうな小さな声で『はい』とデリシアは返事をしたのだった。




