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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王宮では60

スカーレットの手紙に綴られているのはジョイスの近況報告が大半。どうしてスカーレットではなくジョイスのものなのか、アルフレッドは虚しさを感じずにはいられなかった。しかし振り返ると以前の手紙に、ジョイスをよろしく頼む的なことを書いたのはアルフレッド。スカーレットはそのアルフレッドの文面に対し律儀に応え、頼まれたジョイスがどう過ごしているのか状況を伝えてきたということだ。王子妃としての教育のせいだろう、スカーレットはアルフレッドの言葉を忠実に遂行したのだ、手紙による報告という手段で。


物足りない。アルフレッドはその美しい文字を見ながら、ジョイスの事など微塵も知らせなくていいのにと思った。スカーレットが知らせる必要がないくらいに、ジョイスは手紙を送ってきている。内容はスカーレットの周囲で起きていることばかりだが、その文面からはそれとなくジョイスがどうすごしているかが窺えるのだ。


二人は幼馴染みで友人。でも、この手紙というか報告書擬きからは、どうしてもそれぞれの今までの立場が見え隠れしてしまうのは仕方がない。けれどジョイスの『アル』という呼びかけ同様、スカーレットも『アルフ様』を使ってくれている。たったそれだけのこと、しかしスカーレットがその呼びかけを今回も使ってくれたことがアルフレッドに喜びを与えてくれるとは、あんな最悪な別れ以降顔を合わせていない元婚約者は考えもしないだろう。


今になって気付いてもしょうがないが、スカーレットはアルフレッドにとり何て大きな存在だったのか。昨日は足りないものだらけに思えた執務室。けれどここにスカーレットがいてくれたら、全てが満たされるのではないかと思えるほどだ。


「ダニエル、スカーレットとジョイスへ返事を書くから待っていて欲しい。実はジョイスへの手紙は用意してあったのだが、もう一通必要になったようだ」

「はい、お待ちしています。父もそうなるだろうと予想しておりました。ところで、今後は隣国との通商が盛んになりそうですね。王宮が主体になって、契約書の校正をしてくれるのならば皆安心でしょう。その通達の後にテレンス様の婚約式の正式発表となれば、会議の後に多くの方々がキャリントン侯爵の元へ向かうのは当然ですね」

「言語と契約書への慣習が違うからな、あちらの国は。そこに国が関与する姿勢を見せれば、こちらの貴族達は安心し、あちらの貴族達は何らかの盲点を突くようなことはしないだろう。しかし言語と慣習が異なる隣国との契約書を問題なく作成し続けた令嬢がこの国にいたのを知っていたか、ダニエル?」

「…はい」

「どうやらその令嬢も含め、俺の幼馴染達が今後のことを考えているようだな」

「ご安心下さい。姉はそこにキャリントン侯爵家を引き込む予定です」

「ダニエル『ところで』とわざわざ話を切り替えて俺から探りたかったことは得られたか?」

「…はい、殿下が容認していらっしゃるか否かが気掛かりでした」

「そうだな、『見守っている』というのが正解だろうか」

「ありがとうございます」

「ダニエル、『ところで』街道整備が更に進んだら俺と花嫁探しの旅にでも出ないか」


アルフレッドは便箋を用意しながら何の気なしにダニエルに問うてみたのだった。

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