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ナーサと交代で朝食にやってきたノーマンからハーヴァンの様子を確認すると、薫は徐にキッチンへ向かった。
フライパンにバターを溶かし、少し大きめ且つ柔らかめのクルトンを作る為に。
ハーヴァンの調子がいくら思わしくないとはいえ、そろそろ胃の中に何か入れた方が良い。そこで薫はやわらかクルトン入り野菜スープを作り始めたのだった。
「キャロルさんは何をしているんですか?」
「パンを香ばしく焼いて、スープに入れるの。嗅覚でハーヴァンさんの食欲をそそることが出来ればと思って。ノーマンのスープにも入れてみる?」
食事を取りに来たノーマンは、バターの香りに誘われたようで薫が何をしているのか尋ねてきた。その様子から、ノーマンはバターも好きなのだろうと薫は理解した。これなら、シンプルに溶かしバター多めのプレーンオムレツもノーマンは喜びそうだ。これまた卵好きの薫が愛して止まない一品。ただし、スパニッシュオムレツのように卵液を流し込んだらそのままとはいかない。スクランブルエッグを作る要領でフライパンを揺らしながら、菜箸で混ぜなくては。でも、ここは大所帯。一人一人に提供するとなると時間が掛かる。それでも、あのバターを含んだ半熟気味の卵の味は格別。いつか皆にご披露しようと薫は思った。
その前に、ノーマンにバター風味、やわらかクルトンを披露しなくては。
薫は器用にフライ返の上にクルトンをいくつか乗せ、ノーマンのスープボールの中に落としたのだった。試してみたくてもそう言えそうにないノーマンの為に。
そして思う、菜箸が欲しいな、と。バターたっぷりふわふわ半熟オムレツの為にも。ついでに、もっと小さめなフライパンも欲しい。出来れば銅板のものが。銅板フライパンが手に入ったら、ホットケーキも作りたくなりそうだ。
ファルコールでの楽しい卵ライフに思いを馳せたいのは山々だが、薫はその前にハーヴァンの様子を確認しなくては。
「ゆっくり食べてね。わたしはこれをハーヴァンさんに届けるから」
薫がトレイにクルトン入り野菜スープを乗せると、直ぐにケビンがやって来て代わりに持ってくれた。ケビンとノーマンが何か目で遣り取りをしたのを薫は気付かない振りでジョイスに声を掛けた。
「ジョイさんも一緒にハーヴァンさんの部屋へ様子を確認しに行きましょう」
二人が行った視線の会話は粗方ジョイスを見張っておけとか、ジョイスからの質問事項に注意しろといったところだろう。何かあっても面倒だ、それなら自分が連れていってしまおうと薫は声を掛けたのだった。
ハーヴァンが休む部屋に入ると、ちょうどナーサが換気をしていた。
部屋の中を見る限り、ハーヴァンの意識がしっかりしているので傍で座っていることに耐えられなくなったナーサが動いているといったところだろう。
「…申し訳ございません、ジョイスさ」
ジョイスの姿を確認したハーヴァンはすぐさま体調不良を謝ろうとしたのだが、その言葉は続かなかった。ジョイスの横にいるスカーレットの姿を認識してしまったからだ。
「ハーヴァン、こちらはこのホテルを運営しているキャロルさん、いいね、キャロルさんだ。俺達は昨夜から非常に世話になっている、そのことを理解するように」
「畏まりました」
穏やかな口調で話すジョイス。しかし、内容は命令以外の何物でもない。
そして薫は有り難く、その力関係に乗っかることにした。余計な説明をするより、この状況を利用するのが一番良い。
「はじめまして、ハーヴァンさん」
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明日からまたもやシフトの山がやって来てしまうので、更新が…極力間を開けないように、そして、そのままフェイドアウトしないよう気を付けます。更には、他の滞っているものを少しずつなんとかしたいとも…




