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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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トビアスとAが拾ってきた栗は、薫の予想を超える量だった。

ここに米があるならば栗ご飯一択なのだが、残念ながら米はない。それに栗ご飯の為ならば、面倒な皮むきにも耐えられるが、それ以外ではその忍耐を薫は持てない。そこで選んだ方法は全てゆでることだった。


「ゆで上がった栗を二つに切って、こうしてスプーンで丁寧にくり抜いてもらえるかしら」

ノーマン、ハーヴァン、そしてジョイスを前に、薫はお願いという体で作業を依頼した。既に全部ゆでてしまったのだ、勿論三人には拒絶など許されないのだが。


「全てくり抜き終わったら、ハーヴァンにはこの栗をヘラで滑らかにする力仕事が待ってるわよ。楽しみにしていてね」

三人にはこの栗がどういうお菓子になるのか想像も付かないだろうが、薫の目標は栗の茶巾絞り。三温糖はないけれど蜂蜜で代用出来そうだし、残るもう一つの材料も塩なので問題ない。


「手間を掛けた分以上の美味しいお菓子になると思うわ。ファルコールの栗を前リッジウェイ子爵ご夫妻に楽しんでもらいましょう、ね、ノーマン」


そして練り上がった栗ペースト。蜂蜜を少しずつ加え、薫好みの甘さ控えめに仕上がった。作業を頑張った三人は、見た目の素朴さを裏切る美味しさに驚き、試食が一つでは済まなくなる程だった。


「さあ、じゃあ、今日の夕食の準備をしましょう」


前リッジウェイ子爵夫妻は二度目の滞在。そこで夕食のメニューは前回好評だったポルチーニ茸を今回もふんだんに使うことにした。

メインはジャガイモとポルチーニ茸のグラタン。前回も初日に出したミモザ風サラダ。サラミ、ハム、チーズの盛り合わせにパン。そしてベーコンステーキ。重要なのは、ノーマンに前子爵夫妻も一緒に夕食に参加すると知られないことだ。薫はジョイス達と事前に打ち合わせたように、前子爵が連れてきた使用人達の分を別皿で下準備することで上手く誤魔化したのだった。序に、別のことでノーマンの意識も逸らしておいた。


「ノーマン、覚えている?ベーコンステーキはサビィがあなたに手伝ってもらってここで初めてした料理よ。これは是非、お二人に召し上がっていただかないとね」

「はい。それにあの型で焼いたパンも」

「ふふ、滞在中は沢山召し上がっていただけるよう、どんどん焼いておきましょうね」


ファルコールの館は昨日からパンが焼き上がる香がひっきりなしに立ち込めている。ゲストを迎えたので、いつもよりも多く用意しているのだが、焼く回数を重ねたことで薫達の腕も上がったのだろう以前よりも香が良くなっているようだ。


「そうだ、ここでノーマンとサビィにパン作り教室をしてもらうのはどう?前子爵夫妻と使用人の方を対象に。そして焼き上がったばかりのパンにしみ込むくらいバターを塗って食べてもらうの」

「それ、良いと思う」


両親がファルコールに来た時に一緒に遠乗りに行く羽目になったハーヴァンは直ぐに賛成した。あの何とも言えない恥ずかしさをノーマンにも味わわせたいのだろう。薫としては、結婚式のケーキ入刀ではないが、二人がどのように一緒に作業をするかを前子爵夫妻へ見せる良い機会になると考えたのだが。しかもその場で熱々の幸せのお裾分けも出来るのだ。


「どうかしら、ノーマン?お付き合いまでは許してくれたけれど、前子爵は夫になることは『早々に』に留めたわ。少しでも早めてもらわないと」

「はい。サビィと話し合って、どういう風に進めるか決めます」


今回の滞在は前回と比べ物にならないほど、前リッジウェイ子爵夫妻には思い出深いものになるだろうと薫は確信したのだった。


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