王都リプセット公爵家25
頼みと言われたがそれは命令、しかも期日を示されなかったということは速やかに実行しろということ。
その為、オランデール伯爵は辻褄合わせのクリスタル訪問が終わると、直ぐにリプセット公爵へ訪問伺いを立てたのだった。数日は待たされると伯爵が予想していた訪問日の通達。しかしそれは思いの外早い日時を指定されたのだった。
受け取った返信を見た時、伯爵は予想外の日時に公爵が言った危機管理という言葉が脳裏をかすめた。クリスタルへの確認結果をどうしてこんなにも公爵は急いで知ろうとするのか。貴族社会で大きな役割など担ってもいない、一令嬢のことだというのに。恐らくそれは、公爵がそこに何等かの管理しなければいけないことがあると考えているからだろう。事後になってはいけない、管理すべき危機を感じているということだ。
その危機とは何か。これ以上キャストール侯爵家との関係が悪くなることを避けたいということだろうか。それならば、リプセット公爵家にとりクリスタルは危険因子となる。
オランデール伯爵は通された部屋で公爵を待つ間、報告内容を今一度頭に思い浮かべこの内容に無理矛盾がないか考え続けた。
「待たせたな、伯爵」
「こちらこそお忙しいのに、時間を取っていただきありがとうございました」
普段はあまり待たせることがないリプセット公爵。その公爵が待たせたのだ、それは伯爵との面談がこの時間に無理やり押し込められたということだろう。
伯爵はその理由の選択肢を素早くいくつか考えた。一番そうであって欲しいのは、報告だけなのだから短時間で済むとこの時間に当てられたということ。最も避けたいのは、クリスタルの行動が既に危険を招き、取り急ぎ対策を取る必要があるということだ。数年前の事後処理を今頃行っている伯爵には良く分かる。事後処理になってしまった事案は、時間の経過と共に面倒事が増えると。
「では、早速。オランデール伯爵令嬢が商家の娘にリッジウェイ子爵令嬢を王都へ連れて来るよう依頼した理由を聞かせてもらおうか」
公爵が意識してそう言ったのかは分からない。しかし伯爵の耳には誰が、誰を使って、誰に、何をしようとしたのか、はっきりとクリアに届いた。ここが法で裁きを与える場所ならば、クリスタルがオリアナに命じサブリナを拉致させようとしたと聞こえるかのように。
しかし、公爵の表情はいつもと同じ。感情も考えもいつも同様全く窺い知ることが出来ない。せめて話す速度がいつもより多少でも早ければ、理由を急いで聞きたいのだと分かっただろうに。そしてそこから、伯爵も何らかの予想を立てることが出来ていたのかもしれない。けれど、公爵は話せという圧すら掛けることなく、伯爵の発言を待っているだけ。
伯爵は一呼吸置いてから、自分こそ感情に揺れがあってはいけないと用意した『理由』を話し始めたのだった。




