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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都とある修道院22

「お父様、今、何とおっしゃいました?」

「サブリナは王都には戻らないと言ったのだ」

「どうしてお父様がそのことをわたくしに伝えにいらしたの」


オランデール伯爵がリプセット公爵に確認するよう言われたこと、それはクリスタルがどうしてサブリナを連れ戻そうとしたかの真意。確認する必要などない程、クリスタルの意図は明らか。それでもオランデール伯爵がわざわざ修道院まで出向いた理由は、辻褄を合わせる為だった。公爵から確認するよう言われた時に了承の意を示した以上、それに伴う行動を取らなければならない。どこに公爵の目が潜んでいるのか分からない以上、こういうことは疎かに出来ない。小さな矛盾が気付けば大きな歪みを生むのだ、更なる問題を抱え込まない為にもこの訪問は必要なことだった。

それに丁度良かった、こうしてクリスタルを訪ねる理由が出来たことは。執事ではなく、これは伯爵自身が直接クリスタルと話をしなければならないことなのだから。


「…分かったわ。あの平民が全く役に立たなかったということね。賢くなさそうだもの。お父様がこうして知らせに来たということは、大きな失態でも犯したのかしら」

「クリスタル、教えてくれ。どうしてあの娘を使った。何と言っておまえの命令を引き受けさせた」


クリスタルの真意など分かりきっている伯爵は、どういう経緯で話が進んだのか先ずは事実確認を始めた。『分かったわ』とクリスタルは言ったが、サブリナを王都に連れ戻せと命じたことが招いてしまった現状など知る由もないだろうから。それに全てを把握してからでなければ、今後を考えることも出来ない。


「伯爵家を首になったのだもの、サブリナを連れてくればまた雇用してもらえるようわたくしが取り計らってあげると言ったわ。平民の子に伯爵家で再度働くチャンスをちらつかせたのよ」


オリアナが伯爵家を追い出された本当の理由を知らないからこそのクリスタルの言葉。しかしちらつかされたオリアナはジャスティンに会えることを願い、言われたことに賭けたのだと伯爵は理解した。


恋は盲目とはよく言ったものだ。クリスタルは知らぬうちに、オリアナのそれを利用した。もしも、オリアナを首にする時にジャスティンを立ち会わせ、しっかり関係を切らせておけば…、しかし今更そんなことを考えても仕方がない。ただクリスタルの馬鹿げた命令に従う危険因子がいるということを伯爵は気に留めておかなければならないということだ。


「仮にあの娘がサブリナを王都に連れ戻していたら、その後はどうするつもりだったのだ。おまえは修道院にいるというのに」

「離縁されて行き所がないサブリナですもの、もう嫁ではなくなるけど大好きなお兄様の近くに置いてもらえれば泣いて喜ぶでしょう。わたくしはその機会をプレゼントしようと思ったの、つまり伯爵家の中に住まわせてあげるつもりだったわ」


言い方を変えれば、クリスタルはサブリナを誘拐させ、その後伯爵家内に幽閉しようとしていたも同然だ。全てが上手く行っていたならば、それは伯爵家にとり都合の良い話だっただろう。だが、誘拐する場所はただでさえ国境の町ということで警備にあたる兵が多い上、対象はそこを治めるキャストール侯爵家の客人であるサブリナ。残念ながら恋に盲目な娘では端から不可能だっただろう。だから、今、この状況なのだが。

せめてもの救いは、クリスタルが直接オランデール伯爵家の馬車を使いファルコールへ向かわなかったことくらいだと伯爵は溜息を吐いた。


そしてこれから事の次第をクリスタルに話さなければならない。今、クリスタルがどういう状況にあるのかを把握してもらわなければ。


失態を犯したのはオリアナではなくクリスタル。賢くないどころか、クリスタルは状況を正しく把握することすら出来ていなかったのだ。

『何も分かっていないのはおまえだ』とだけ言えたのなら、どれだけ楽だろうと伯爵は思った。否、言うことは簡単。しかし伯爵は話を都合良く解釈する傾向が強いクリスタルに現状を正しく理解させなければならない。そうしないことには、これからのことなど話しようがないのだから。


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