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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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部屋の支度を終わらせ、夜食作りに合流したナーサと仕上げ作業をしていると入口の方が賑やかになった。

ジョイス達が戻ってきたのだろう。


薫達のところまでやって来たジョイスは先ずは深々と頭を下げ感謝の意を表した。しかし、上げた顔には不安が現れている。理由は聞くまでもない、私兵に背負われているハーヴァンだろう。体は温まり顔色はマシになったが、自分の足では歩けない程消耗してしまっているということだ。

ハーヴァンには無理に何か食べさせるより、今は全身を伸ばし休ませることが先だ。容態を尋ねたところで、ハーヴァンからの返事は期待できそうにない。だったら、一緒に行動していたジョイスに確認する方が確かだろう。


「ハーヴァンさんはそのまま部屋に運びましょう。ナーサ、水差しの用意を。そしてそのまま付いていて」

「はい」

「ありがとう。ナーサの夜食は後で特別なものを用意するから。じゃあ、手の空いた人から夜食を食べて英気を養って。あなたもよ、ジョイさん、通常の三倍の宿泊料を頂くのだから夜食はサービスするわ」


薫は最後の私兵が夜食を食べ終わると、詰め所へ持ち帰る用の夜食を手渡した。馬の回収に向かった私兵分以上にたっぷりと。

「皆で食べて。今夜は騒がせてしまってごめんなさい」

「いえ、自分達の仕事ですから。却って、気遣ってもらってすみません」

「気遣ってない。皆にはいつも感謝しているから、そのしるしに過ぎないわ。今はまだ出来ていないけど、そのうち定期的に数人ずつ招いて食事を一緒にしたいと思っていたのよ。私兵から準騎士になったとしても構わないわよね、食事会をするのは」

「皆、喜びます」


私兵達が去ると、薫はカップを四つ並べ特別な飲み物を注いだ。シナモン、ショウガ、マーマレードを入れたグリューヴァイン風ホットワインを。温め直したので、作ったときよりもアルコールは飛んでしまっただろうが体は温まるはず。


「ナーサの分ですよね、俺、持っていきます」

「ありがとう、ノーマン。ナーサからハーヴァンさんの様子を聞いてきてね」


ノーマンにナーサ用の夜食とホットワインが乗ったトレイを渡すと、薫は残りの三つのカップをジョイス、ケビン、そしてノーマンの席に置いた。


「これは?」

「今夜は寒いから特別」

「君の分は?」

「ベースが赤ワインだからわたしはまだなの」

前世アラフォーの薫だが、今の姿はスカーレット。この世界の飲酒可能年齢までまだ数か月足りない。


「キャロルさん、誕生日は盛大に祝いましょう。勿論、大人の仲間入りですからワインを開けて」

「ありがとう、ケビン。ところで、ジョイさん、ハーヴァンさんはいつから調子を崩していたの?」

「…」

「質問は明日すると言ったけれど、これは重要なことなの、ハーヴァンさんの為に」

「昨日くらいから寒さと関節の痛みを感じたとハーヴァンは話していた。ケレット辺境伯領都とファルコールでは、宿を取りたくなかったので天候が悪くても急ごうとしたのが裏目に出てしまった。結局ここで泊まることになったのだから」

「じゃあ、あの天気の中ずっと馬を走らせたの?」

「ああ」

「それでは馬も可哀そうだわ。動かなくなって当然よ」


断定出来ないが、ハーヴァンは何らかの菌で感染症かウイルス感染を引き起こしたようだ。潜伏期間が過ぎ、それが発症したと考えると次はジョイスの可能性も否めない。勿論、私兵達を含めここで二人に関わった全員にその可能性が出てくる。

皆にはしっかり食事と休息を取ってもらい、病気に打ち勝つ体を作ってもらわなくてはいけない。詰め所へは栄養価の高いものをなるべく多く差し入れようと薫は思った。


しかし、ハーヴァンは既に発症しその後怪我をしてしまった。体が弱っているところに、外傷で何らかの菌が入ったことも考えられる。その場合は、抗生物質を用意しておきたい。


アオカビからはペニシリン、放線菌からはストレプトマイシン。薫は頭の片隅にあった、抗生物質情報を手繰り寄せた。しかし、この二つがどうやってそれぞれから生成されたのかまでは分からない。それに、今からアオカビや放線菌を出したところで、誰がその先を引き受けてくれるのか。


出来るかどうかは分からない。けれど何もしないよりはマシだろうと、薫は部屋に戻ったら放線菌から生成された抗生物質、しかも水に溶ける粉末状の物と指定して願うしかないと考えたのだった。


そしてもう一つ、部屋に戻ったら整理しなくてはいけないことがある。ジョイスの話から彼等は隣国から王都へ向かう途中やむを得ずここに滞在することになったということだ。ジョイスは聞かれたことには約束通り全て話すだろうが、聞かれなければ話さない可能性がある。何をどう聞けば、薫のキャロルとしての生活が守られるのか考えなくては。


薫にしてみれば、自分の楽しい暮らしの為の情報収集活動。しかし、いつものようにケビン達は流石キャストール侯爵家のご令嬢、ジョイスから情報を引き出す状況を見事に作り出したと感心した。

ジョイスはアルフレッドの側近。持っている情報は秘匿性が高いものが多いはず。しかも、ケレット辺境伯領都やファルコールで姿を見られないようにしていたとすれば、遠からずキャストール侯爵家に関係する情報の可能性がある。

ケビン達はそれぞれ、スカーレットがどのような手法でジョイスから何を聞き出すのか楽しみに似た興味を持ったのだった。

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