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ノーマンのサブリナを見つめる姿は、言葉がなくてもまるで愛を乞うているよう。この世界の男性が皆あの姿を愛しい女性にしてくれるのならば、薫もいつかはしてもらいたいと思うくらい羨ましくもあり心奪う光景だった。そして、普段は無口なノーマンが、その体勢だけではなく言葉を紡ぎ始めた。
「サブリナ、俺は君が君だから好きなんだ。月のもののことを気付いてあげられなくてごめん。不安を抱えさせてしまってごめん。大好きな君にそんな表情をさせるなんて…」
「ノーマン…、わたし、不妊だけではなく、女性としての機能まで、だから」
「サブリナ、君は重要なことを忘れている。君は最高に素晴らしい女性だ。傍にいてくれるだけで、傍にいさせてくれるだけで、俺が幸せになれる。年を取っても、サブリナがいてくれるだけで俺は幸せだと思う。だから別れようなんて、考えないで。不安があれば、一人で抱え込まないで二人で解決する努力をしよう」
オランデール伯爵家にいた時のサブリナはジャスティンという夫がいても全てを一人で何とかしなければならなかった。そして前世でオリハルコンのお局と呼ばれ、大神さんは一人で何でも出来るからと仕事を振られまくっていた薫も同じ。だからだろうか、ノーマンの愛の告白、特に『二人で』という部分に薫はウルっときてしまった。
実現しなかった未来を夢で見た薫。言えることなら、サブリナは妊娠出来ると言ってしまいたい。そうすればこの目の前で繰り広げられる甘さと、もどかしさが入り混じる状況を解決出来るというのに。そして、この原因を作ったジャスティンへは、薫の容姿がスカーレットでなければ『このクソ野郎』と言ってやりたいところだ。
でも、両方とも言うことは出来ない。それに、サブリナとノーマンは色々なことを乗り越えていくからこそ愛が深まるのだろう。それこそ二人の身分差はどうでも良くなるぐらいに。だから薫を頼ってくれたサブリナにはヒントを与えるだけでいい。
「サビィ、たぶん気付いてないと思うから言うわね。あなたに月のものが来てないと知ったノーマンは妊娠を考えたと思う。だって、ジャスティン様は不能だったのでしょう。子供なんて出来るわけないわ。でも、ノーマンは違う。それはあなたが一番分かっていることよね」
「あっ…」
「あなたは今とても愛されているでしょう、ノーマンに」
薫の言葉にサブリナは、それまでの暗い表情から一転頬を赤らめ満ち足りた顔をした。まるでわたしは愛し愛されていますと言っているかのように。その表情にノーマンも安心したのだろう、握っていた手を引いてサブリナを立ち上がらせると薫に深々と頭を下げた。
「わたしが至らないばかりに、サブリナの悩みを聞いて下さってありがとうございました。ただ、体の不調は心配なので明日スコット医師とサブリナのご両親が到着前に二人で面談をするようにします」
「ねえ、サビィ、このノーマンの対応が普通だとわたしは思う。月のものが来ないから女でなくなるなんてことを言うのではなく、体に不調があるのかと心配する方が」
サブリナは大きく頷くとノーマンに『ありがとう』と言い抱きついた。更には感極まったのか、それを口付けにして表した。薫はというと『えっ、ここで?』と思いつつも、感動のシーンに水を差すわけにもいかず目を背けたのだが…。二人の口付けは、止むどころか深くなりだしてしまった。
硬派、若しくは女性に不慣れだと思われるジョイスはこの状況に耐えられるだろうかと薫が心配した時だった、そのジョイスの右手が薫の左手を掴んだのは。




