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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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どういうことだろう。サブリナの言葉の意味は理解出来る。しかし、どうしてそうしなければいけないのかが、薫にはさっぱり分からない。サブリナとノーマンが互いに心を寄せ合っていることなど、見ている方が恥ずかしくなるくらい誰の目にも明らかだというのに。


「ノーマンがサビィを傷付けたの?」

それでも薫は質問した。しかも、ノーマンがサブリナを傷付けるようなことはないと分かっていても、敢えてそのことを用いて。サブリナは感情的になった方が、腹の内を話すタイプだろうから。


「ノーマンはそんな人ではないわ。それはわたしが誰よりも保証出来る」

「じゃあ、どうしてノーマンを誰よりも信用出来るあなたが、そんなことを言うの」

「実は、月のものが予定よりも遅れていて…。わたし今までそういうことがなかったから…」


別れと生理、質問に対する答えに食い違いがある。しかしここは話を止めずに全てを聞いた方がいいだろうと薫は考え、ツェルカと共にサブリナを見守った。


話を聞くうちに薫に怒りがこみ上げて来たのは言うまでもない。オランデール伯爵家でサブリナが与えられた心的外傷は酷いものだった。生理が来なければ多くの女性は普通もっと違うことを想像するはずなのに、サブリナはとてもネガティブなことを考えてしまうくらいに。


オランデール伯爵家では侍女のオリアナとメイド長が性交のあった日と生理の始まりを確認し記録していたという。跡取りを産むことが仕事の一つという考えが根付く社会では、それはしょうがないのかもしれないが、その後がサブリナには酷過ぎた。二年目くらいまでは『今回は駄目だったそうね』とオランデール伯爵夫人は結果を聞いた上でサブリナに言葉を掛けていた。けれど、それ以降は『今回も駄目だったのね』、『あなたに問題があるのではない?』と夫人からは嫌味に加え、威圧的な態度を取られるようになったそうだ。邸内のメイド達は聞こえるように『夜の回数が多いだけの娼婦のような存在の奥様ね』などと陰口を叩かれ、サブリナはどんどん萎縮していった。侍女とメイド長のみが管理し伯爵夫人に伝える内容が、他のメイド達にも知れ渡り嫌味を囁かれること自体誰かの悪意を感じる酷い話だ。


そしてその状況の中で、夫だったジャスティンの言葉が一番サブリナに恐怖を与え、萎縮させた。四年目くらいからジャスティンは『月のものがきてくれるだけでもありがたい、それすらなくなってしまったら、サブリナはもうこの邸には本当に不要となってしまうから』と言い続けたのだ。

何て酷い言葉だろう。

今回生理が来ないことでサブリナは子供が産めないだけではなく、とうとう女性としての機能まで終わってしまったとノーマンとの別れを考えてしまったようだ。


薫はツェルカに目で合図を送り、この状況を誰よりも簡単に変えられる人物を連れて来るよう頼んだのだった。


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