王都リプセット公爵家別邸6
リプセット公爵夫人はその美しくもそれぞれが個性的に咲こうとする花々の話を更に掘り下げた。自分とは違う考え、立場を持つクロンデール子爵夫人の話を聞くことが、ファルコールで目にする事実の参考になるだろうと。
「ハーヴァンがそんなことを言ったの?」
「はい、ぼそっとですが『マーカム子爵は実は良い人だ』って。あの方、色々なお噂で若い男性陣からはそれなりに支持があるようですが…。その理由は決して良い人だからではないのに」
「そうね、女性からすると困ったお方だわ」
「でも、スカーレット様は信頼を寄せているようでした」
「夫人、遠慮はなしで教えてちょうだい。スカーレットのマーカム子爵へ対する信頼を十とすると、ジョイスはどれくらいかしら?」
公爵夫人から尋ねられた子爵夫人は少し困ったように考えた。ジョイスとデズモンドがスカーレットと同じ場所で何かの問題を話し合っているのならば、その受け答えで割合を計れるが実際にそんな場面はなかった。ただ何かの折に、スカーレットが侍従や侍女に会話の中で『それはデズに伝えたから大丈夫』、『デズにも伝えてくれた?』と言葉にしていたのだ。
子爵夫人はそのことを公爵夫人に伝え、自分なりの予想を話して聞かせた。
「実は、マーカム子爵以外にもスカーレット様は『トビー』という名をわたくしが覚えてしまうくらい出していました。隣国セーレライド侯爵家のトビアス様だそうで、少し前までファルコールに滞在していたとか。スカーレット様とは交流を深め、近々またいらっしゃるそうです。他国の珍しい食材を手土産に。スカーレット様は、その、…同世代の男性に苦しめられたので、頼れる年上の方を好ましく思っているのではないでしょうか」
「頼れる年上…、ジョイスはスカーレットを苦しめた同世代ですものね」
「申し訳ございません」
「いいのよ。事実なのだから」
「お義母様、そうなるとスコット医師の存在も気になるところですわね。実は隣国の公爵家の方ですし」
「そうだったんですか。気付きませんでした。温泉という施設のことで、スカーレット様の相談に乗って、頼られて…」
「スカーレットは馬のことではハーヴァンを頼っているでしょう」
「はい、有り難いことに」
「困ったことに、ジョイスは随分大荒れの海に小船で向かっていってしまったのね。どうしましょう、早くファルコールへ行きたくなったわ。行ったところで、わたくしも旦那様も見ているだけなのに」
それでも事前準備はしっかりしておこうと公爵夫人は考えた。デズモンドとトビアスの裏を出来る限り取り、スコットに至っては何故公爵家を出て医師なのかを確かめなければならない。キャストール侯爵のことだ、当然既にしているだろうがリプセット公爵家としても調べておくべきだと夫人は思ったのだった。




