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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都リプセット公爵家20

「ではオランデール伯爵は令息の様子から、リッジウェイ子爵令嬢もまた体調を崩していないか気になったと言うのだな」

「はい。伯爵家を離れている間に決まった離縁だったので、リッジウェイ子爵令嬢がそれを知った時に気落ちしてしまったのではないかと今更ながら心配に思いまして。それに当時のリッジウェイ子爵令嬢はオランデール伯爵家を代表してファルコールへ向かいましたが、今は違います。キャストール侯爵令嬢へオランデール伯爵家当主のわたしが改めて謝罪の品を届けなければなりません。わたしがファルコールの館へ向かえるよう、キャストール侯爵へリプセット公爵から話をお通しいただけないでしょうか」


嘘は何一つ言っていない。伯爵邸であんなにジャスティンに寄り添っていたサブリナのことが心配は大袈裟だとしても、やはり気にはなっている。厳密に言うならば、何をどこまで把握し、今後はどうする予定だったのかを知りたいのだがと伯爵は思った。それにスカーレットからクリスタルへの許しを乞いたいのも事実だ。


「そうか。だが、伯爵がファルコールへ向かう必要はない。先ず一つ目、リッジウェイ子爵令嬢はオランデール伯爵令息のように床に臥せることはなかった。今では新たなことに取り組み、忙しくしているようだ。その点は安心するといい。そして二つ目、キャストール侯爵令嬢への謝罪の品は侯爵家へ直接届けるべきだ。伯爵がそのようなことをすれば、他が追随する。それでは令嬢の療養にならないだろう」

「でしたらキャストール侯爵令嬢への面会は諦めますが、元嫁であるリッジウェイ子爵令嬢の元気な姿をこの目で確かめたく思います」

「それには及ばない」


言って直ぐに会える人物ではないリプセット公爵に目通り出来たのは、オランデール伯爵が夫人から修道院でのことを聞いた三日後だった。その間、クリスタルには品評会に出せる程の刺繍の技術がないことが明らかになり、夫人がこの世の終わりの様な表情を浮かべるようになった。漸くクリスタルに未来がないと理解出来たのだろう。しかしバザー当日に刺繍の腕前を確認しに行った夫人は『刺繍なんてお母様と同じくらいしか出来ないわ』と言ったクリスタルの表情に疑問を持った。自分では刺繍が出来ないのに、その表情には焦りも不安も全く感じられなかったと言うのだ。


どういうことだ。職人から作品を購入しようとでも目論んでいるのだろうか。けれどそれは悪手。いつか発覚するかもしれないと心配事を抱えるようなもの。しかも発覚すれば王族を欺いたと罰せられる。その職人に金を握らせ、どこかへ消えてもらうにもクリスタルがまた作品が必要になった時に困るだけ。況してや、毎回刺繍を依頼した職人が消えてしまったら、それこそ大事になる。

第一、いくら刺繍職人と言っても、品評会で高評価を得る腕前を持つものが何人いるのか。そしてそういう職人は大抵王族と関わりのあるドレスメーカーに所属していることだろう。


伯爵家の仕事内容も確認したいが、刺繍を引き受けてくれないか尋ねたかったサブリナ。しかし、リプセット公爵は伯爵が会いに行く必要はないと間髪を入れずに言い放った。そして、それだけでは伯爵が納得できないだろうと理由を話し始めたのだった。


長々と書いていますが、ようやく別々だった話にまとまりが…と本人は思っております。

漏れがないか不安ですが。

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