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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都とある修道院19

クリスタルが言う『汚らしい手』。転んで地面を触れた手という意味なのか、それとも身分を意味しているのか。

考える必要はない。ジョイスの手紙に書かれた格下からの輿入れだとクリスタルが義姉に対して行ってきたことを考えれば、自ずと答えは導かれるとアルフレッドは思った。


ただ理解してもらわなくてはいけない。その手を持つ者がこの国の大切な国民で、その手に未来を秘めていることを。しかも子供にある未来は簡単に良くも悪くもなってしまうからこそ、大人が導かなくてはいけないと。


伸ばそうとした手は、クリスタルの強い口調で萎縮し今にもだらりと下へ落ちて行きそうだった。

「手を見せてごらん」


アルフレッドは引っ込みそうになった手を子供に差し出させると、諭すように言った。


「転んだ後の手は一度きれいに洗わなくては。そこに病気が付いていたら大変だ」

「あ、そうだった。お姫様が石けんで洗うって教えてくれたんだ。前は石けんが無かったけど、今はあるよ。それに、たまに良い匂いがする石けんも」


子供の言葉はところどころ補足が抜けるものだ。しかし、その言葉だけで十分だった。アルフレッドは孤児院に必要な数の石けんがないことにスカーレットが気付き、取り計らったのだと理解した。その際、手の洗い方を教えたに違いない。


「修道院長、良い匂いの石けんとは?」

「申し訳ございません。贅沢品だとは承知していたのですが、特別な日用として頂戴しておりました。ラベンダーの香りがするとても心が和むものを」

「そうか。それは引き続きこちらに納入されるよう手配しておこう」

「いえ、大丈夫です。既に何年も先の分までご手配頂いております」


修道院長は『誰が』という主語を敢えて使わず話を進める。そんな気を使わなくてもいいのに、そう言ってしまえば修道院長は寧ろ心苦しさを感じるだろうとアルフレッドは理解した。

子供は堂々と『お姫様が』と言ったというのに、ここにもまた歪が生まれてしまった。


さて、子供の意識は『汚れた手を洗わなくてはいけない』へ逸らすことが出来ただろうが、クリスタルはどうすべきか。


「オランデール伯爵令嬢…」

クリスタルに子供との話し方には配慮が必要だと伝えようとした時に、アルフレッドは気付いた。クリスタルが汚らしい手からアルフレッドが守ってくれたと勘違いしてしまったと。欲望がさらに強くなった目をしているのだ。先に釘を刺す言葉を言わなければ、感謝の気持ちを伝えられかねない。


「小さな子供に必要なことを伝える時には分かり易くおしえなければならない。若しくは、この子が言ったお姫様のように教えてあげなければ。どうだろう、この子の手を引いて洗い場や連れて行ってもらえないだろうか」


アルフレッドはクリスタルがどう出るかと考えた。王族からの依頼を断ることは難しい。余程の機転を利かせない限り、これで面倒なことになりそうなクリスタルは排除出来るだろう。そう思った矢先、娘を思ったオランデール伯爵夫人が頭を働かせ会話に入ってきたのだった。


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